物語No.48『花園決戦/参』
邂逅する悪魔と嵐を、異境学園にいた神妹境娘は視認できていた。
第三校舎の空き教室の中、椅子に座って呟く。
「やはりあの悪魔、動きがおかしいですね。中途半端に五蝶楓夏の記憶を得た……という可能性もありますが、悪魔が人間から奪うのは願いを叶えた後。つまりあの悪魔は定説に沿っていない」
神妹境娘は考える。
なぜ悪魔がイレギュラーな行動をとっているのか。
「あんたは思考をするために人に落ちたの?」
近くの水槽からそう声がする。
突然の声かけだったが、神妹境娘は驚かない。
「八百比丘尼、あなたの考えを聞かせていただけませんか」
「それ必要?」
「知りたいと思いました。あなたの思考を」
「今のあんたで私の思考を知りたいってことね。まあ良いけどさ」
八百比丘尼は水槽から上半身を出し、水槽の縁に腕を置く。
胸は鱗で隠され、時折ヒレが水面から顔を覗かせる。
「森の悪魔は黙示録の魔術によって召喚された悪魔。その行動理念は大半の悪魔と同様。だけど違うってことは、召喚した人物によって操られているか、干渉を受けたか。いずれにせよ、召喚者の意図が加わっているって私は思ってる」
「良い考えです。私も同様のことを考えていました」
「でしょうね。私の推測はここまで。でもあんたならもっと深いところまで分かってるんじゃないの」
八百比丘尼は神妹の建前など気にせず、本音を探ろうとしている。
「ええ、しかしそれは今から私が口にしなくてもじきに明かされると思いますよ」
「ん? それってどういう……」
「今まで何度もこの世界は異世界と接続してきましたが、あまり大衆にモンスターや異常現象を認識されることはなかった。しかし今回、あの悪魔は現実世界に知らしめてしまった。モンスターの存在を」
「まあ確かに。でもすぐに彼らが動いたし、巨大な木は見られても、モンスターは見られてないんじゃない」
「そうですね。確かにニュースや動画投稿サイトを見ても、巨大な木の映像が映っているだけで、モンスターの存在は認識されていない。しかし、──術が荒い」
神妹は携帯端末で、朝焼けの花園に出現した巨大な木を映した映像を見ていた。
実際には巨大な木の周辺に大量のモンスターがいるが、映像では見えなくなっている。
神妹が視線を向けていたのは、見えなくなっているはずのモンスター。
「この世界には異世界適正のある人間は少なからずいる。瀧戸愛六のような血縁的な異世界適正、日向穂琉三のような精神的な異世界適正、五蝶楓夏のような後天的な異世界適正」
「うん……? 何が言いたいの?」
「この世界はよく異世界からの侵略を受ける。それを利用し、私のいた異世界では百以上の氏族がある"勝負"を行っている」
「ああ、あれのことね」
「それにはルールが設けられている。そのルールをある氏族が、今回の件で故意に違反していたとしたら」
「は!? そんなことしたら他の氏族から総攻撃されて終わっちゃう。いくらなんでも百もの氏族を相手にすれば最悪氏族の終焉を意味することになるし、故意に違反なんてしないでしょ」
「そうですね。しかしあるのではないでしょうか。それを回避する方法が」
「そんなの……」
八百比丘尼は考える。
だがすぐには思いつかないのか、頭を抱えたまま口ごもる。
「まあ何にせよ、あの戦いが終われば分かります。彼らの狙いが」
神妹は淡々と言葉にする。
その先に何が起こるのか、神妹境娘は知っている。
彼女の思考でたどり着いた答えは、無数の可能性の中で最もふさわしいもの。
未来に起こる出来事を分かっている。
だから彼女は教室の入り口へ視線を向けた。
やがてある人物が扉を開け、教室にいる神妹境娘、八百比丘尼と対面する。
「え? なんであなた方が……っ!?」
驚く八百比丘尼の横で、神妹は呟く。
「間もなく知る、接続者の秘密。彼らはそれを知り、何を思うのでしょうか」
神妹の笑みが、空き教室に浮かんだ。




