物語No.45『会いに行く』
五月十五日。
朝になり、空いていた病室に転がっている穂琉三をヒルコが見つけた。
愛六を呼び、愛六が行方不明になっていた経緯を問いかける。
「愛六、僕は……何もできなかった」
涙で顔を濡らす穂琉三を見て、おおまかな事情を察した愛六は目線を合わせるようにしゃがみこんだ。
穂琉三は虚ろげに床に目を向けている。
その目は床すらも見ていない。
「ねえ穂琉三、何もできないなんて言うのは死んだ後に言いなよ。あなたはまだ生きている。だったらできることはまだ残っているよ」
「でも……」
「穂琉三は一人じゃない。あなたの側には私や、ヒルコや、いろんな人がいる。だから顔を上げて。そして周りにいる私たちを見て。一人じゃできないことがあるなら私たちが力を貸す」
穂琉三はゆっくりと顔を上げる。
優しく見守る愛六と目が合う。
「諦めたくないんでしょ。だったら一緒に戦おう。死ぬまで」
愛六はぎゅっと穂琉三の手を握る。
手を通して伝わる愛六の思い。
「あなたにはまだ、何ができる?」
愛六は問う。
今の彼に意思はあるのか。
「僕は、幸せになってほしい人がいる。その人の幸せを叶えるために、僕は戦いたい」
穂琉三は力強い目で訴える。
穂琉三の思いを受け取り、愛六は微笑む。
「それでこそ日向穂琉三だ。だったら戦おう。どんな脅威を相手にしても」
「うん」
穂琉三は戦意を取り戻した。
楓夏の思いを知った。
だからこそ、彼女の幸せを望む。
誰もが幸せになっていい。
穂琉三は楓夏の幸せを望んだ。
だからまだ戦える。
「ねえ、嵐はどこにいるの?」
間もなく、扉の向こうから包帯をぐるぐる巻きにした少年が現れる。
「俺を呼んだか」
五蝶嵐を見て、穂琉三は一瞬迷う。
今から言おうとしていることが、本当に伝えるべきことかどうか。
だが嵐の目を見て、穂琉三は悟る。
「そっか。気づいていたんだね」
直感で理解する。
言葉では伝えずとも、嵐が何も思っているのか。
「嵐、朝花は……いや、楓夏は間もなく死ぬ。彼女は悪魔との契約によって願いを叶えるまで生き続けるけど、限度が来たんだ。だから願いを叶えるまでもなく、楓夏は死ぬ。でも、せめて最後くらいは幸せになってほしい。願いを叶えてほしい。だから──」
穂琉三は言う。
「──会いに行こう。嵐。最後に楓夏が自分の人生を幸せで終えられるように」
穂琉三は楓夏と話し、彼女を知った。
だから楓夏の幸せを望んだ。
嵐は穂琉三の言葉を聞き、迷うことなく答える。
「俺は楓夏に会いたい。会って伝えたい言葉がある。今まで言えなかった言葉を、あいつに」
嵐はずっと楓夏の側にいた。
そんな彼が楓夏の幸せを望んでいないはずがない。
自分の幸せ以上に、楓夏には幸せになってほしいから。
嵐は誓う。
「伝えるよ。言葉にしなきゃ伝わらないもんな」




