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一人一人に物語を  作者: 総督琉
第一章3『花園で眠る君に』編
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物語No.41『敗北の後で』

 異境病院。

 異境学園のリゾートエリアに設立された総合病院。

 そこは稲荷や八百比丘尼のように異世界出身者が紛れ、働いている。


 森の悪魔(フォレスト・デビル)との戦闘を終え、日が変わり、放課後になっていた。

 病院の廊下を歩くとある看護師を、ある女子生徒が引き止める。


「ディディエリさん、二人の傷を治しすぎないで下さいね」


 彼女の種族はサキュバスだが、容姿を人へ変える能力を使用しているため、人と見分けがつかない。


「分かったけどさ、神妹はそれで良いの。接続者には強くなってもらいたいんでしょ。だったら一刻も早く傷を治した方が良いんじゃない」


「それは駄目です。彼らには誰にも頼らず強くなってもらわなくては」


「ふーん。やっぱ神妹、スパルタだね」


 そう言い、ディディエリは病室へ歩き出した。



 ♤



 涙に濡れた目を開ける。

 希望を求めて伸ばした手は、何を掴むでもなく空虚にさ迷っていた。

 また俺は失ったのか。


「朝花……」


 病床で目覚めた俺は、布団を力強く握りしめる。

 今はもう側にいない君へ思いを馳せるけれど。


 机には花瓶が置かれ、花が添えられている。

 誰が置いたのだろうか。

 添えられていたのはひまわりだった。

 俺はひまわりをじっと見ていた。


「嵐、起きたんだね」


 花から声がする。


「八百比丘尼か」


 恐らくは花瓶に入っている水から声だけを出しているのだろう。

 相変わらず便利な能力だ。


「八百比丘尼、少し、昔の話を聞いてくれ」


「うん。何でも話して」


 八百比丘尼は優しく頷く。

 俺は朝花のことを思い出していた。


「朝花に会った時の俺は、もう人生なんて嫌なものだと決めつけていた。妹が死んで、人生に意味がなくなったあの日から、ずっと俺の人生は空っぽだった。でも、朝花に出会ってから何かが変わった」


 あの日、ひまわりが咲く花園で君に会った日から。


「あの日、確かに俺は変わった。妹が死んでから自堕落に生きていた俺だったけど、朝花に出会ってからは人生に意味を見つけられた。まだ人生には希望があるって思ったんだ」


「朝花は、嵐にとって大切な人だったんだね」


「ああ。誰よりも大切で、自分の命よりも大切な……」


 だからこそ、俺は自分の弱さが嫌いだ。


「なあ八百比丘尼、俺は結局守れなかったんだよな」


「…………」


「それに、もう二度と扉が現れることはない。せっかく掴んだチャンスを俺は逃したんだから」


「嵐は……嵐はできる限りのことはしたよ。全力で戦った。だから、仕方がなかったんだ。それほどの相手だったんだから」


 仕方がなかった。

 それで朝花が戻ってくるはずもない。

 同情させたところで、俺が負けたことに変わりはない。救えなかったことに変わりはないんだ。


「八百比丘尼、俺はまだ強くなれるかな。俺はもっと……強くなれるのかな」


 頬を涙が伝う。

 守れなかった無力さを痛感する。

 俺は弱い。

 弱いからって、助けられないのか。

 大切な人は強くなくちゃ守れないのか。

 悔しいよ。

 悲しいよ。

 ただ笑っていられたら。

 ただ君を側で感じていたい。

 それだけだったのに。

 君との日々があんなにも愛おしかったから。

 俺は……


 まだ君に言えていない。

 この思いを伝えるまでは。


「俺は朝花に会いたい。会いたいんだ。まだ俺は、あいつに会えるよな」


「朝花はまだ生きている。諦めなければ、きっと方法が見つかる」


「ああ。いつか、君に……」


 会いたい時に側にいない。

 その悲しさが、俺の心に痛みを走らせる。

 その痛みは、どこまでも深く。



 ♡



 僕は五蝶が入院している病室の前で立ち止まっていた。

 扉を少し開け、聞こえてきたのは、涙が落ちる音。

 最初に彼に出会って思ったのは、強い、だった。

 強い彼にも、倒せない相手がいた。

 僕はこれからも戦い続けるだろう。

 その度に死にかける。

 それでも僕は、勝利を掴み続けることができるのだろうか。

 どれだけ強くなれば、悲しみを消すことができるのだろうか。


「穂琉三、こんなところで何してる。歩けるほど傷は回復していないんだぞ」


 赤い光球が側に浮いていた。

 確かに先の戦いで傷を負い、身体の所々には火傷を、左腕は未だ骨折しており、また全身に痛みが巡っている。

 だが不思議と歩ける。肉体が徐々に魔力に慣れ、強化している証拠だろうか。

 僕は病室の扉を閉め、少し離れる。


「ヒルコ……。異世界ってやっぱり怖いね」


「それでもお前は戦わなければいけない。接続者として」


「ヒルコはさ、怖くないの」


「死ぬことは確かに怖い。それでも怖いことばかりが人生じゃないだろ。人生には幾つもの要素があって、その一つに恐怖があるだけ。中には幸せや喜びだってあるんだ。だから怖くなったら、そういうことを考えて気を紛らせる」


「そっか」


 ヒルコも怖いんだ。

 誰だって死は怖い。

 今まで積み重ねてきたものが一瞬で消え去るんだから。

 知識、経験、友情、愛情、そういった長い時間をかけて積み重ねてきたものは、死という事象の前に一瞬で無に帰す。

 僕はそれが怖い。

 その事を考えると、自分の人生に意味があるのか、とさえ考えてしまう。


 僕は何のために生きている。

 何のために生きて、何のために死ぬのだろう。

 死んだ後に僕は天国に行くのだろうか。それとも地獄か。はたまたそれ以外の答えが待っているのか。


 きっと分からないから怖いんだ。

 知らない人と初めて話す時は緊張するし、どんな人か分からない限り潜在的な恐怖はつきまとう。

 怒りやすい人だったらどうしよう。話が合わなかったらどうしよう。嫌われていたらどうしよう。

 気にしなければ良いだけなのかもしれない。

 でも、僕はそれらを気にしないなんてできなくて。

 いつだって気にしてしまう。

 誰かが悲しんでいると、僕も悲しくなってしまうから。

 だから思うんだ。

 どうか、世界が今よりも良くなっていますように。


 ただ願い続ける。

 誰もが笑える世界があったなら。

 僕はそんな世界で生きていきたい。


 だから僕は──


「ねえヒルコ、扉を探しに行こう」


 ──諦めたくないんだって思うんだ。

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