表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
一人一人に物語を  作者: 総督琉
第一章3『花園で眠る君に』編
39/110

物語No.35『風』

 十九時。

 撮鳥さんと分かれ、僕と愛六は百花学園校門前で立ち話をしていた。


「ねえ愛六、どうして接続者は百花学園にいるって思ったの?」


「勘」


「なるほど……」


 愛六はそっけ無い返事で答える。


「これまで三つの現場を見てみたでしょ。あれって魔法の実験をしてたのかな」


「その可能性が高い。でも……」


 外での魔法の行使。

 僕らはどの現象も魔法なくして起こりえないと感じていた。

 巨石が自力で動くはずもなく、たとえ人力でも木々を薙ぎ倒せるほど腕力を持つ者もいない。


 つまりは接続者。

 接続者がいるとなると、もう一つの疑問が湧く。


「百花学園も異世界と接続しているのかな?」


 仮に百花学園が異世界と接続していた場合、その接続者も日々戦っていることになる。

 であればその人物に救援を求めることは難しい。


「とにかく確かめてみよう」


 百花学園に二十四時から潜入。

 そうなってくると、


「「どっちが百花学園に行く」」


 必ずどちらかが今まで通り自分達の学園を守らなければいけない。

 二手に分かれることになる。


 愛六は僕を窺う。

 僕は目を背ける。


「まあそうだよね。さすがに初対面相手に話すのは難しい」


 僕の内心をまんまと言い当てられた。


「私が接続者と接触する。まあ会えるかは分からないけど」


「……うん」


「だから私たちの学園は任せたよ」


 僕は学園を任された。

 適材適所だ。


 僕はヒルコとともに学園に戻る。



 ♤



 二十四時を迎える。

 百花学園にいた愛六は掃除ロッカーから出て、壁にかけられた時計を確認する。

 時刻は、


「零時一分……」


 もし接続が行われていたのなら、時間が零時を過ぎることはない。

 つまり百花学園は異世界と接続していないということ。

 校庭や校舎を見回しても、モンスターの姿は見られない。


「零時を過ぎちゃったんだ。じゃあ今頃穂琉三は学園を守り抜いた後かな」


 愛六は穂琉三がいるであろう学園の方角に目を向ける。


「接続者の当ては外れたな。これで十三日に来る強敵は倒せるかどうか」


「大丈夫ですよ。今までだって強いモンスターと戦ってきました。それに倒さずとも扉を閉じればいいんです。いくらでも方法はあります」


 ミナカが励ましの言葉を投げる。

 だが神妹がわさわざ忠告をするということは、今まで通りじゃ厳しいということ。

 愛六は眉をひそめる。


「接続者は私たち以外にもいるはずだ。それは私たちの学園にだって……」


 あくまでも可能性。

 自分たちが置かれた状況を踏まえると、新たな接続者を願うしかない。


「考えていても仕方ないか」


 軽く屈伸をし、気を入れ直す。


「ミナカ、急いで学園に戻るよ」


「はい」


 愛六は学園へ走り出した。

 わずかに人並み外れた速さで。



 ♤



 僕は稲荷とともに学園にいた。

 学園は異世界と接続し、学園のどこかに扉が現れる。

 稲荷は場所を高等部区画だと嗅ぎ付け、高等部区画でモンスターと戦闘を繰り広げていた。


「あれ……?」


「どうした?」


 稲荷が鼻をくんくん鳴らしながら、中等部区画を見る。


「いや、気のせい……のだ? だって二つも……それはあり得ないのだ」


 稲荷は中等部区画を見続ける。


「あれ……? 消えたのだ……!?」


「稲荷、木陰に隠れていろ。今から校舎内に入って扉を見つける」


「わ、分かったのだ」


 稲荷の動揺の理由を知りたかったが、今は扉を閉じることが優先だ。

 稲荷は木陰に隠れ、僕は拳に火炎を纏って校舎内に突撃する。


 火炎が踊る宵闇。

 異形がさ迷う学園。


 校舎を走り回り、屋上に着く。

 屋上には扉があった。


 周囲を見回し、近くにモンスターがいないことを確認する。


「ヒルコ」


 呼び掛けに答え、ヒルコは鍵に変化して手もとに落ちる。


「これで──」


 鍵穴に鍵を通す寸前、その刹那に衝撃が走る。

 床の崩壊とともに、懐に人牛の魔物が出現。ヒルコが光球に戻る間もなく、人牛の拳が脇腹を直撃した。


「あぐわ……っ!」


 激痛と手を取りながら宙高く舞い上がった。

 この高さから落ちればしばらくは戦えない。そうなれば今後の危機により一層対処できなくなる。


 助かる術はない。

 絶望した。


 こんなところで死ぬのか。

 こんなに呆気なく死ぬのか。

 僕はまだ死にたくない。

 こんなところで──


「死にたくないのに……」


 絶望が襲った。

 命が遠ざかる。


 ──死ぬ。

 そう直感した刹那、


「じゃあ、助けてあげるよ」


 風が吹いた。

 髪を頬に当てるような優しい風。

 木々を歌わせるような温かい風。


 風は僕を抱えて空を飛んだ。


「……っ!?」


 それは人だった。

 空を飛ぶ槍の上に立ち、落下していた僕をすんなりと抱えた。

 白を基調とした制服を着た少年。

 その制服は百花学園の生徒と同じものだった。


 そうか。

 この人が。


「君、精霊と一緒にいるんだ。いいな」


 戦いの一部始終を見ていたのか、彼はそう言った。

 視線は僕から屋上にいる人牛の魔物に移る。

 屋上は半壊していたが、扉がある部分は壊れず残っていた。


「だけど俺には精霊はいらない。だって俺は精霊なしでも強いからな」


 彼は微笑み、まるで勝利を確信しているかのような笑みを浮かべている。


「槍よ降れ」


 その呟きに誘われ、彼の乗る槍は屋上に向かって勢いよく降下する。

 人牛の魔物が回避行動をとる隙すら与えず、風に乗った槍が魔物の胴体を貫いた。

 圧倒的威力。

 僕はただ、彼の実力に力の差を感じるしかなかった。


「さ、扉を閉めよう」


 彼は僕を下ろすと、手を上に広げる。


「鍵よ来い」


 そう呟くと、彼の手もとに鍵が現れる。

 その鍵で扉を閉めると、学園中のモンスターが光柱に焼かれ、消滅していく。

 僕が苦戦した戦況を、彼は一瞬で終わらせた。


 強い。

 僕や愛六よりも格段に。


「おいお前ら、百花学園で誰かを探しているみたいだったけど、接続者でも探していたのか」


 目的を話していないのに、彼は何かを察しているようだった。


「お前たちの傷の具合を見るに、協力者を得ようとしていたんだろ。今の様じゃ死ぬだけだしな」


 全てを見透かされているようだ。

 説明をする手間が省けた。

 僕がわざわざ喋らなくても大体は理解しているようだし。


「明日一日だけ協力をお願いしたいんですけど……良いですか」


 彼は即答しなかった。

 しばらく考え込むためか空を見上げる。

 今度は視線を落とし、花壇の方を見下ろす。


「条件がある」


「条件……ですか?」


 とても呑めないような条件を出されれば、愛六と二人で戦う覚悟を決めなければいけないが……


「その日、俺は扉の先に行く。お前らもついてこい」


「……は!?」


 扉の先。

 それが意味するのは、モンスターの巣窟。

 自ら死地に飛び込むようなもの。


「それを呑めなければ、どのみちお前は明日死ぬ」


 十三日、神妹の忠告通りなら、彼の協力を得られなければ死ぬ。

 いずれにせよ、待っているのは死。


 絶望の二択に、僕は──


「受けてやろうじゃない」


 彼の後ろ、青い光球をそばに浮かべる少女──愛六が答える。


「良いだろう。では引き受けよう」


「私は瀧戸愛六。あなたは?」


五蝶(こちょう)(らん)だ」


 彼──五蝶嵐の協力を得ることに成功した。

 だがその条件は、非常に重いものだった。


 この先、十三日に来る敵から、僕らは生き残れるだろうか。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ