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一人一人に物語を  作者: 総督琉
第一章2『瀧戸愛六の葛藤』編
32/110

物語No.29『力になりたい』

 五月十一日。

 日向穂琉三が16ポイント。瀧戸愛六が24ポイント。



 六時。

 目を覚ます。

 雫の部屋に行くが、やはり帰ってきていない。


 今晩、藍は学校に雫とともに現れる。

 おそらく異世界と接続する時間に会うことになる。

 できればその前に帰ってくれれば良いが、そう上手くはいかないだろう。

 結局神妹が二人の記憶を消してくれるから大丈夫ではあるが、神妹がモンスターから二人を守ってくれる保証はない。


「どうするべきか」


 そもそも藍は学校の屋上と示しただけで、高等部なのか中等部なのかそれ以外なのか、そこを明確にはしていない。

 時間も夜と曖昧にし、正確な時刻が分からない。


 後手に回っている。


 どう足掻いても夜に対峙することになる。

 そうなればモンスターとの戦闘の中で雫に会うことになる。

 藍はどうでも良い。だが雫を守れるのか。


 ──お前には誰も守れない。


 緋影の死。

 目の当たりにしてから私は自分の力に限界を感じている。

 どれだけ頑張っても私には守る力はない。


 穂琉三に力を借りようか。

 いや……


 私はどうすれば良いのだろう。



 ♤



 日向穂琉三は包帯を巻いた腕を組みながら考えていた。

 朝のトレーニングを終え、木に背を預けながらヒルコと話す。


「愛六の様子が少しおかしいよね」


「確かにそうだな。恋でもしてるんじゃねえのか」


「恋だったらもっと明るいと思う。もっと違う、暗い系のやつ……。例えば喧嘩とか」


「うーん」


 穂琉三の考えにヒルコは肯定しない。


「たとえ何であれ、気になるなら聞いてみたら?」


「いやいや、それは……」


「まだ勇気の経験値は足りないみたいだな」


「……っ!」


 ヒルコの狙ったようなさりげない一言が、穂琉三の心をわずかに揺さぶる。


「僕はそれくらいの勇気なら持ってるもん。すぐに聞きに行くさ」


 気丈に振る舞う。


「そうと決まれば早く学校に行くよ」


 穂琉三は胸を異常に張る。


「何その体勢」


「勇気が出るおまじない」




 八時。

 登校した穂琉三は自分の席に座ったまま微動だにしなかった。

 既に愛六は出席している。


「穂琉三?」


「だってしょうがないじゃん。愛六は友達と楽しそうに話してるんだし」


 愛六は二人の友人と楽しげに話をしている。

 穂琉三は小声でヒルコに言い訳する。


「ホントに土壇場で尻込みするよな」


「でも愛六が一人だったら喋りかけようと思ってたんだよ」


「ホントか?」


「う、うん。本当だよ」


「そこは力強く言えよ。そんな返事じゃ頼りないだろ」


 穂琉三とヒルコが言い合いをしている間にも、愛六は友人とともに教室を飛び出した。


「どうする?」


「ほ、放課後にしよう」


「二人きりなら聞けるのが本当だったら良いけどな」


「できるよ。だって話すことは普通にできるようになったし」


「九割方相手から話しかけてるだろ」


「でも残りの一割は自分から話せてるもん。大丈夫だもん」


 過剰な自信で語る穂琉三。

 ヒルコは不安になりながらも、一応信じた。


 放課後が来る。

 愛六は演劇部の部室に向かう。


「部活が終わるのを待つ」


「でも帰りは誰かと一緒に帰るんじゃねえのか」


「た、確かに!」


「気付いてなかったのかよ……」


 呆れてため息をこぼす。


「どど、どうしよう」


「観察してみれば良いんじゃねえか? あいつが友達と話しているのを盗み聞きしたが、今日は体育館で演劇の稽古をするってよ」


「体育館なら人もたくさんいるだろうし、愛六に気付かれることもないか」


 ヒルコの意見に賛同した穂琉三は、演劇部が稽古を行っているという体育館に向かった。


 場所は幼稚園区画にある体育館。

 ステージ上で演劇部の学生が台本を片手に大きな声を出している。


 見物客は穂琉三だけではなく、他にも数人見に来ていた。

 見物客の影に隠れられることに安堵していた。


「愛六、今のところまた台詞間違えてるよ」

「まだ体調悪いんじゃない」

「最近休みがちだけど大丈夫?」


 愛六のもとに学生が集まり、口々に心配の言葉を投げ掛ける。

 その声は見物客にも聞こえており、当然穂琉三の耳にも入っていた。


「もう少し休んでても良いよ。まだ本番まで時間はあるし」


「大丈夫。ちょっと調子が悪いだけで……」


 再び愛六は演技を始める。

 今度は台詞を忘れたのか、棒立ちでフリーズしていた。

 常に優秀な彼女を見てきた演劇部の生徒たちは、愛六に過剰な心配を寄せていた。


 穂琉三も普段の愛六ではないことを確信し始めていた。


「ヒルコ、僕は愛六に助けられた。愛六がいなきゃ学園はもうなかった」


「ああ」


「僕はまだ愛六のために何もできてない。だから何かしたい。でも……その勇気がないんだ。彼女に悩みを聞く勇気がない」


 穂琉三は自分の弱さを嘆いた。

 目の前で苦しむ愛六に手を差しのべることさえできない。


「これじゃ三浦にも嫌われちゃう」


 なんとか勇気を振り絞ろうとするも、前に踏み出す足は進まない。


「勇気がほしいか」


 うつ向く穂琉三の横から女性が言う。

 声の方を見て、穂琉三は驚く。


「母さん……」


「私に話してみろ。抱えている悩みを」

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