物語No.29『力になりたい』
五月十一日。
日向穂琉三が16ポイント。瀧戸愛六が24ポイント。
六時。
目を覚ます。
雫の部屋に行くが、やはり帰ってきていない。
今晩、藍は学校に雫とともに現れる。
おそらく異世界と接続する時間に会うことになる。
できればその前に帰ってくれれば良いが、そう上手くはいかないだろう。
結局神妹が二人の記憶を消してくれるから大丈夫ではあるが、神妹がモンスターから二人を守ってくれる保証はない。
「どうするべきか」
そもそも藍は学校の屋上と示しただけで、高等部なのか中等部なのかそれ以外なのか、そこを明確にはしていない。
時間も夜と曖昧にし、正確な時刻が分からない。
後手に回っている。
どう足掻いても夜に対峙することになる。
そうなればモンスターとの戦闘の中で雫に会うことになる。
藍はどうでも良い。だが雫を守れるのか。
──お前には誰も守れない。
緋影の死。
目の当たりにしてから私は自分の力に限界を感じている。
どれだけ頑張っても私には守る力はない。
穂琉三に力を借りようか。
いや……
私はどうすれば良いのだろう。
♤
日向穂琉三は包帯を巻いた腕を組みながら考えていた。
朝のトレーニングを終え、木に背を預けながらヒルコと話す。
「愛六の様子が少しおかしいよね」
「確かにそうだな。恋でもしてるんじゃねえのか」
「恋だったらもっと明るいと思う。もっと違う、暗い系のやつ……。例えば喧嘩とか」
「うーん」
穂琉三の考えにヒルコは肯定しない。
「たとえ何であれ、気になるなら聞いてみたら?」
「いやいや、それは……」
「まだ勇気の経験値は足りないみたいだな」
「……っ!」
ヒルコの狙ったようなさりげない一言が、穂琉三の心をわずかに揺さぶる。
「僕はそれくらいの勇気なら持ってるもん。すぐに聞きに行くさ」
気丈に振る舞う。
「そうと決まれば早く学校に行くよ」
穂琉三は胸を異常に張る。
「何その体勢」
「勇気が出るおまじない」
八時。
登校した穂琉三は自分の席に座ったまま微動だにしなかった。
既に愛六は出席している。
「穂琉三?」
「だってしょうがないじゃん。愛六は友達と楽しそうに話してるんだし」
愛六は二人の友人と楽しげに話をしている。
穂琉三は小声でヒルコに言い訳する。
「ホントに土壇場で尻込みするよな」
「でも愛六が一人だったら喋りかけようと思ってたんだよ」
「ホントか?」
「う、うん。本当だよ」
「そこは力強く言えよ。そんな返事じゃ頼りないだろ」
穂琉三とヒルコが言い合いをしている間にも、愛六は友人とともに教室を飛び出した。
「どうする?」
「ほ、放課後にしよう」
「二人きりなら聞けるのが本当だったら良いけどな」
「できるよ。だって話すことは普通にできるようになったし」
「九割方相手から話しかけてるだろ」
「でも残りの一割は自分から話せてるもん。大丈夫だもん」
過剰な自信で語る穂琉三。
ヒルコは不安になりながらも、一応信じた。
放課後が来る。
愛六は演劇部の部室に向かう。
「部活が終わるのを待つ」
「でも帰りは誰かと一緒に帰るんじゃねえのか」
「た、確かに!」
「気付いてなかったのかよ……」
呆れてため息をこぼす。
「どど、どうしよう」
「観察してみれば良いんじゃねえか? あいつが友達と話しているのを盗み聞きしたが、今日は体育館で演劇の稽古をするってよ」
「体育館なら人もたくさんいるだろうし、愛六に気付かれることもないか」
ヒルコの意見に賛同した穂琉三は、演劇部が稽古を行っているという体育館に向かった。
場所は幼稚園区画にある体育館。
ステージ上で演劇部の学生が台本を片手に大きな声を出している。
見物客は穂琉三だけではなく、他にも数人見に来ていた。
見物客の影に隠れられることに安堵していた。
「愛六、今のところまた台詞間違えてるよ」
「まだ体調悪いんじゃない」
「最近休みがちだけど大丈夫?」
愛六のもとに学生が集まり、口々に心配の言葉を投げ掛ける。
その声は見物客にも聞こえており、当然穂琉三の耳にも入っていた。
「もう少し休んでても良いよ。まだ本番まで時間はあるし」
「大丈夫。ちょっと調子が悪いだけで……」
再び愛六は演技を始める。
今度は台詞を忘れたのか、棒立ちでフリーズしていた。
常に優秀な彼女を見てきた演劇部の生徒たちは、愛六に過剰な心配を寄せていた。
穂琉三も普段の愛六ではないことを確信し始めていた。
「ヒルコ、僕は愛六に助けられた。愛六がいなきゃ学園はもうなかった」
「ああ」
「僕はまだ愛六のために何もできてない。だから何かしたい。でも……その勇気がないんだ。彼女に悩みを聞く勇気がない」
穂琉三は自分の弱さを嘆いた。
目の前で苦しむ愛六に手を差しのべることさえできない。
「これじゃ三浦にも嫌われちゃう」
なんとか勇気を振り絞ろうとするも、前に踏み出す足は進まない。
「勇気がほしいか」
うつ向く穂琉三の横から女性が言う。
声の方を見て、穂琉三は驚く。
「母さん……」
「私に話してみろ。抱えている悩みを」




