表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
一人一人に物語を  作者: 総督琉
第一章2『瀧戸愛六の葛藤』編
31/110

物語No.28『過去はあなたを離さない』

 過去を思い出していた。


 私のトラウマ。

 友達を守れなかったこと。

 あの時どうしていれば緋影を助けられただろうか。


 窓の外を見れば既に夜が姿を現していた。

 机には手紙が置いてある。


『雫は連れ去った。明日の夜、学校の屋上で待つ。あの日の続きをしよう』


 そうか。

 確か藍が部屋に入ってきて、私を殴って気絶させた。その後で雫を連れ去ったのだろう。

 神社の滝でしないのは、神主らの邪魔が入らないためだ。


「とことん続きをしたいみたいだな」


 時計に目を向けると、既に十一時を回っていた。


「学園に行かなきゃ」


 駆け足で山を登り、学園に到着。

 着いた頃には既に時計塔を稲荷と穂琉三が下りている最中だった。

 穂琉三の側にヒルコとミナカがいる。


「愛六、間に合ったのだ」


「今日は幼稚園区画に出るって」


 穂琉三が生き生きとした様子で言う。

 私は今どんな顔をしてるだろうか。


「急ぐよ」


 稲荷が先導する道を無気力に走っている。

 必死に走る穂琉三の背中を見ていると、どうしてか走る気力がなくなってしまった。

 静かに足音を消し、途中にあった木の下に座り込む。


 今日まで、必死に魔法に向き合った。

 どうすれば魔法を使えるようになるのか。

 毎日必死に考えた。だが一向に上達せず、同じ場所で足踏みをしているだけ。


 もっと魔法が使えるようになりたい。

 ──どうして?

 守れる力が欲しかった。

 救える力が欲しかった。


 あの時緋影を救えなかった。

 いや、魔法がなくたって緋影を救えた。

 救えなかったのは私が滝に飛び込む度胸のない臆病者だったからだ。


 私はどうすれば良い。

 度胸があれば良いのか。

 何があれば人を救える。


「愛六様、どうかされたのですか」


 見上げると、ミナカが浮かんでいた。


「なんでもない。ちょっと考え事してただけ」


 ただ休憩をしていただけのために座っていた。そう思わせるように澄ました顔で伸びをし、幼稚園区画に走る。

 既に幼稚園区画にはモンスターが大量に発生し、穂琉三はモンスターの合間を抜けて建物を目指していた。


 稲荷は列車の遊具の影に身を低くして隠れていた。


「稲荷、扉はどこにあるんだ?」


「あの建物の中からモンスターが現れたのだ。多分あそこなのだ」


「オッケー」


 準備運動で体を慣らし、校庭を突っ走る。

 既に穂琉三は建物に入った。


「気を付けるのだ。多分中には〈化け猫〉や〈馬怪(ばかい)〉が……素早いモンスターがいっぱいいるのだ」


「オッケー」


 ミナカが作り出した水玉を操り、襲いかかるモンスターを次々に溺死させる。


「ミナカ、ちゃんとついてきてよね」


「はい」


 建物に入る。

 三階建て。


 穂琉三は一階を探しているはず。


「二階に行くよ」


 階段には大柄の牛が鼻息を荒くして足で床を蹴っている。

 水玉を牛の前に見せると、牛は私に気づいた。モオオ、と吠えるとともに勢い良く突進する。

 牛がぶつかる前に高く飛び上がり、牛の背後に着地する。


「……っ!?」


 牛は止まりきれずに壁に激突する。

 回避した際のジャンプは牛を軽々と超え、滞空時間は二秒もあった気がした。


 稲荷の言う通り、私の肉体は強化されつつあるというのは本当らしい。


 二階に上がる。

 二階にも大量のモンスター。


「異世界と接続が開始してからどれくらい経った?」


「もうすぐ十分です」


「妥当だな。もっと経っててこの数のモンスターなら三階か屋上に扉がある可能性が高かったが……」


 長年の経験から推測する。


「愛六様!」


 私は考え込んでいた。

 ミナカに呼ばれ、周囲に目を配らせる。

 背後、すぐそこまで迫っていた人型の猫が鋭い爪を振るい、壁をえぐる。

 しゃがんでいなければ首が飛んでいた。


「『水槽の君』」


 水玉でモンスターの頭を覆う。

 だがモンスターは素早く、壁や天井を縦横無尽に駆け、背後に回り込んだ。


「速い……っ!?」


 再度爪。

 空気を切断する音。

 かわしきれなかった一撃が頬をかする。


 素早い敵に私の攻撃は通用しない。

 穂琉三のように近接攻撃があれば……。


「あぁ…………」


 まただ。

 また穂琉三と自分を比べてる。


 今までは比べることで自分の優位性を確立していた。今は比べることを恐れている。


 どうして……。


「どうして!」


 爪をかわし、距離が縮まる。がら空きの胴体に蹴りを食らわす。

 敵は後ろに飛んで距離をとる。


 仕留めきれない。

 今の私じゃ力不足。


 このイライラは何?

 敵を倒せないことにムカついている?

 違う。

 もっと別のことだ。


「『火拳槌(カグヅチ)』」


 敵の背後から走ってきた穂琉三が攻撃を当てる。

 燃える拳は脳を揺らし、地面に倒れたまま気絶した。


「一階にも二階にも扉はなかった。残るは三階と屋上」


 穂琉三は私の横を通りすぎ、階段を駆け上がる。追いかけるように階段を上がる。


 劣等感。

 この気持ちは嫌いだ。


 穂琉三を追い越し、一か八か屋上へ。

 幸運にも、屋上に扉があった。


「ミナカ」


 ミナカは鍵に変化し、手もとに収まる。


 穂琉三、私の方が上だ。

 私はあなたよりも強い。


 扉に向かって走る。

 周囲には目も向けず、目の前にあるゴールだけを見ていた。

 だから気づかなかった。

 すぐ側に迫っていた人馬型モンスターの蹴りに。


「愛六!」


 気づいていなかった。

 私を呼び止めていた少年の声を。


 モンスターの蹴りは私に最悪の形で直撃するはずだった。だが穂琉三が間に入り、馬の蹴りを受けた穂琉三は血を流しながら柵に突っ込んだ。


「穂琉三……」


 私は呆然としながらも、扉を閉め、鍵を突き刺した。

 扉が消え、モンスターは光の柱に貫かれた。


 すぐに穂琉三のもとへ駆け寄る。


「無事か」


「なんとか腕で防いだ。腕の骨折で済んでると思う」


 腕からは血がどくどくと流れている。


「止血しましょう」


 神妹の声。

 いつの間にか神妹は屋上にいた。

 穂琉三の側にしゃがみ、腕に触れる。

 わずかな発光を伴い、腕の出血が止まる。


「あくまでも止血をしただけです。骨折が治ったわけではありません。数日はなるべく戦闘を避けてください」


「神妹なら完治もさせられるでしょ」


「どうでしょうね」


 明確に答えることなく、屋上から消えた。


 私が強ければ穂琉三は傷つかなかった。

 原因は私にある。

 不思議にも緋影が死んだ時のことを思い出していた。


 まるで記憶が言っているみたいだった。

 ──お前は誰も守れない。


「ねえ穂琉三」


「ん?」


「死なないでね」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ