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一人一人に物語を  作者: 総督琉
第一章2『瀧戸愛六の葛藤』編
28/110

物語No.25『過去との再会』

「瀧戸愛六(めろ)。あなたの過去に水に関するトラウマがある。だから今のあなたには成長限界がある」


 水の中で稲荷の声がする。

 頭の中に直接話しかけられているような。


 息ができない。

 まずい……、死ぬ。


 死ぬほどの思いって……死ぬじゃん。


 何これ。

 苦しい。


 ああ、ヤバい。


 死んだ……。



「『水中呼吸付与』」



 死を覚悟した刹那、呼吸のできない息苦しさに終わりが来る。

 水の中で呼吸ができる。


「これは魚のように水中でも呼吸ができるために作られた魔法です。瀧戸愛六さん、死ぬところでしたね」


 脳内に聞き覚えのある声が響く。

 神妹は無表情のような微笑んでいるような顔で私を見た。

 稲荷は神妹の登場に驚いている。


 神妹は私と稲荷を掴んだ。

 次の瞬間、神社の前に転移した。


 神妹は稲荷へ視線を移す。


「私が異世界へ行く許可を出しましたか?」


「い、いや……、それは……」


 神妹の凝視に稲荷は目を背ける。


「あと一秒でも遅ければ瀧戸愛六さんは死んでいました。目的は殺害ですか」


「愛六をもっと強くしたかったのだ」


「あなたのやり方は強引すぎます。最悪の場合、水へのトラウマがより強まっていたかもしれません」


「確かに……なのだ」


「次勝手なことをしたら罰を下しますからね」


 目は笑ってはいなかった。

 本気の怒りを初めて垣間見た気がする。

 稲荷は尻尾や耳までぶるぶると震わし、全身で恐怖を体現している。


 神妹は振り返り、私と対面する。


「さて、あなたは稲荷に頼らずに強くなってくださいね」


「稲荷って助っ人でしょ。頼って何が悪いの」


「あくまでも戦闘の際にサポートするだけであり、成長の過程に彼女はいない。それだけは理解しておいてください」


 稲荷に向けたような怖い瞳。

 瞳の奥に深淵があるように思える。

 逆らえば闇に飲まれてしまう。


「はいはい、分かったよ」


 肯定するしかなかった。


「ではまた夜に会いましょう」


 神妹は歩いて校舎に向かった。

 神妹が去っていったのを黙視で確認する。


 震え上がる稲荷の側に座り込む。


「稲荷はどうやって私を強くさせようとしたの?」


「水へのトラウマを克服させようと思ったのだ」


「あれで?」


 神妹の言う通り、あれはトラウマを呼び起こしかけた。

 今回ばかりは神妹に助けられた。


「ってかトラウマって成長限界作っちゃうんだね」


「心は魔法に大きく作用するのだ」


「じゃあトラウマを克服しない限り、私は強くはなれないんだね」


「そうなのだ。まあ色々な方法で頑張ってみるのだ」


 結局今回の一件にあまり意味はなかったな。


 私は少し考えた。

 トラウマの克服方法を。

 すぐにやめた。

 これ以上あの日のことを思い出したくはない。


 私は私を嫌いになる。



 ♤



 ロープウェイで山を下り、中腹で下車する。

 山の中腹には神社がある。

 滝を背景にした神社であり、私が暮らしている場所でもある。


 瀧戸神社。

 滝を奉る神社であり、他にも様々な場所にこの名前の神社が存在している。


「愛六様、お帰りなさい」


「ただいま」


 境内を掃除していた神主に挨拶を流し、階段を下って少し離れた所にある屋敷に入る。

 数人の見習い生に挨拶を受けながら、自分の部屋に入る。


「はぁー。疲れたぁー」


 鞄を投げ捨てベッドにダイブ。

 顔を枕に擦りつけ、「んんー」と奇声を発してつま先をピンと伸ばす。


「愛六様」


 部屋の扉がノックされる。


和泉(いずみ)です」


 和泉雫。

 瀧戸神社に勤める巫女。

 私と同い年で、よく話をする仲だ。


「入ってきなよ」


「はい」


 巫女衣装の雫が部屋に入る。


「どうしたの?」


「小学生の頃を覚えていますか」


「うん。それがどうかしたの?」


「いえ、なら良かったです。では修行の時に起きた事件も覚えているということですか」


「…………」


 私は沈黙する。

 その日起きた出来事に全員が戦慄した。


「忘れるはずがない。あの日から、ずっとあいつを殺したいと思っていた」


「その人が帰ってきて──」


 トラウマの片鱗。


「おいお前、」


 扉が蹴破られる。

 その後、特攻服を着た男が姿を現した。


「殺したいってのは俺のことか」


「どうしてお前が……」


「てめえら全員良いよな。就職先があってよ」


 憎たらしい金髪をかき上げながら、メリケンサックをはめた右手で私を指差す。


「また遊ぼうぜ。あーいろーく」


 トラウマが蘇る。

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