EX物語『魔術師の生誕』
『隻眼の魔術師物語』
隻眼の魔術師が色々な世界を旅し、旅した世界で魔術を分け与える物語。
著者は不明であるが、一人ではないとされており、現実世界に古代から伝えられてきた物語。元々の文献は世界各地に存在しており、時代が進むにつれ、それらの文献を研究者たちがまとめた。研究者が百年以上をかけて集め、解読し、完成させた物語。
隻眼の魔術師の物語はもう一つ存在し、その主人公は右目を失っている。この物語と関連があると思われているが、その物語は文献が少なく、未だ解明が進んでいない。
空を暗雲が覆い、雷鳴が響く日々が続いていた。
大雨が川を氾濫させ、暴風が家屋を壊していく。
その日々が九十日続いた。
誰もがもう晴天は拝めないと思っていた。
腹に少年を身籠り、今にも産みそうな女性もそう思っていた。
こんな世界に産んでしまうことを彼女は悔やんでいた。
「ごめんね。こんな世界に産んで。せめてあなたに希望を与えたかったのに」
泣きながら女性が呟く。
彼女を取り囲む助産師たちが子供を必死に取り出す。
女性がひたすら言う。
「ごめんね。ごめんね。」
やっとの思いで子供を産んだ。
激痛に耐えながら、子供を産んだ。
その時、世界は変わった。
まるで世界の長針を握ったように、生まれたての赤子は呟いた。
「空が晴れる」
赤子の呟きとともに、空を覆っていた暗雲は一掃され、雷も、雨も、暴風も、全てがやんだ。
太陽の光が窓から射し込み、生まれたばかりの赤子を照らした。
全員が疑わなかった。
今産まれた子は神の化身であると。
赤子の誕生からしばらく、町には神の恵みとも呼ぶべき出来事が多く起こった。
荒れた天気によって田畑は荒れ、食物は全て食べられるようなものではなくなっていた。一から畑を作り直し、種を植え、翌日。
畑いっぱいに麦が実っていた。不思議なことが起こった。植えた種は野菜などの種だったはずだ。だが田畑には麦が実り、それも街の人全員の腹を満たせるほどたくさん実っていた。
次の日にはリンゴが、さらにその次の日にはとうもろこしが実っていた。
半信半疑だった町の人々もが敬う。
その赤子を。
以来、幸運が続いた。
そして十三年の時が経ち、赤子は十三歳になった。既にその頃、十三歳の彼は魔術を習得していた。
毎晩、彼は思いつく限りの魔術を試していた。その数は千を超え、あらゆる魔術を生み出した。それらを全て書にまとめ、一冊の本を作った。
しかし彼は魔術を生み出す過程で左目を失っていた。
彼は左目の行方を魔術で探した結果、遠い場所にあることを知った。彼は左目を取り戻すべく、町を出ることを決める。
その事を母親に話すと、母親の顔は地獄にでも落ちたように変貌した。
「行かないでおくれ。行かないでおくれ。」
どうやら母親は、彼がいなくなることでまた町に災いが降りかかると思っているようだった。彼もそのことを危惧していた。町の人々も彼が出ていくことを知り、彼の家に押し掛けた。
町中大騒ぎ。皆一様に脅えていた。
このままでは町を出ていくことはできない。そう思った彼は町の子供三人を呼び出した。
魔術書のページを三枚切り離し、
一人には畑に様々な食物を実らす魔術。
一人には天候を操る魔術を。
一人には天からひらめきを得る魔術を。
こうして三人に魔術を与え、町に危機が起きても大丈夫であることを伝えた。町の人々は安心して彼が町を出ていくことを見送った。
そして彼は左目を探す旅を始めた。




