物語No.15『魔法を手に入れたはずなのに』
僕と撮鳥さんは、急いで三浦さんのお母さんが入院している病院に向かった。
集中治療室の前のベンチに、三浦さんが震えながら座っていた。
僕はかける言葉が見つからず、ただ呆然と立って彼女を見ていた。
三浦さんは僕らの方を一度見てわずかに頬を緩めたものの、またすぐに暗い表情に戻った。
撮鳥さんもかける言葉が分からないのか、三浦さんの姿を見ていた。
「日向、ちょっとこっち来て」
撮鳥さんに呼ばれ、病院の外のベンチに促された。
夜風に晒される身体は冷たいだろう。
感覚的に身体を擦りながら外に出て、ベンチに座って撮鳥さんの話を聞く。
「こういう時、何て言葉を掛ければ良いか分からないものだな」
三浦さんの表情を見て、何もできない自分に撮鳥さんはムカついているようだった。
「ちょっとだけ昔話に付き合ってくれる?」
「はい。構いません」
今は彼女に付き合おう。
彼女の過去には興味もあったし。
「私が三浦に会ったのは中学一年生の四月。つまりつい先月のこと」
何気なく撮鳥さんが三歳下であることが判明し、驚く暇もないほど中、過去の話を始めた。
「私は不思議写真を撮ろうと思って学校周辺の森を散策してたの。でも森は広すぎて私は迷子になっちゃったんだ」
この学園は山頂にあり、周囲を広大な自然で囲まれている。迷子になるのも必然だ。
「私はもう帰れないと思って泣きわめいた。だけどそんな時、三浦は空から舞い降りた天使のように私の前に現れた。三浦は木に巻いた赤いロープを頼りに学校まであっという間に送り届けてくれた。それ以来私は三浦にゾッコンなんだ」
三浦さんとの出会いを話す撮鳥さんは、話しているだけでも嬉しそうだった。
彼女の活躍を少しでも知ってもらえることが嬉しいのだろう。
実際、部室には三浦さんが写っている写真も幾つかあった。
「それでさ、日向」
「はい」
撮鳥さんは僕の方へ身体を向けた。
「日向ってさ、魔法、使える?」
「……えっ!?」
何を言われたのか理解できず、言葉をのみ込むまでに時間が掛かった。
ようやく言われた言葉を理解した時、絶句した。
「ま、魔法って……」
「今朝森の中で日向を見つけたんだよね。観察してたらさ、なんか木に向かって一人でぶつぶつ話してたじゃん。だからてっきり日向は精霊と話をしているのかと思ったんだよ」
精霊と話していることを勘で当てられ、内心息が詰まりそうだ。
「精霊なんているのかな」
「私はいると思うよ。信じていなきゃ不思議写真同好会なんて作らないもん」
「そうだね。いると良いね」
きっと精霊が三浦さんの母さんを治してくれる。
不思議な魔法で治してくれる。
そうだったら良かったのに。
もうすぐ二十四時を向かえる。
「ごめん撮鳥さん。僕はもう帰らなきゃ」
「うん。暗いから気を付けな」
僕は闇夜に飛び込んだ。
振り返ることはできなかった。
森を走っていた頃、僕はヒルコに問いかける。
「ねえ、魔法で人を救えないの」
「いずれできるようになる。だが未熟なお前にはまだ早い」
どうして僕には救えない。
魔法は人を救えるって。
そう信じていたのに。
僕にはその力がない。
その力が必要であるべき時に、僕はその力が使えない。
二十四時になり、学園が異世界と接続する。
愛六は片腕に包帯を巻きながらも、学園に足を運んでいる。僕が来ないわけにもいかない。
「穂琉三、何かあったのか」
愛六は僕の様子がおかしいのを感じ、心配する。
「大丈夫。久しぶりの戦いで緊張してるだけだよ」
そう言って誤魔化した。
「ヒルコ」
「了解」
拳に火炎が纏わりつく。
学園にわき上がるモンスターに向け、僕は感情の赴くままに拳を振るった。
「『火拳槌』」
ああ、強くなりたい。
早く、もっと早く、強く。