表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
一人一人に物語を  作者: 総督琉
第一章1『日向穂琉三の葛藤』編
16/108

物語No.15『魔法を手に入れたはずなのに』

 僕と撮鳥さんは、急いで三浦さんのお母さんが入院している病院に向かった。

 集中治療室の前のベンチに、三浦さんが震えながら座っていた。

 僕はかける言葉が見つからず、ただ呆然と立って彼女を見ていた。


 三浦さんは僕らの方を一度見てわずかに頬を緩めたものの、またすぐに暗い表情に戻った。

 撮鳥さんもかける言葉が分からないのか、三浦さんの姿を見ていた。


「日向、ちょっとこっち来て」


 撮鳥さんに呼ばれ、病院の外のベンチに促された。


 夜風に晒される身体は冷たいだろう。

 感覚的に身体を擦りながら外に出て、ベンチに座って撮鳥さんの話を聞く。


「こういう時、何て言葉を掛ければ良いか分からないものだな」


 三浦さんの表情を見て、何もできない自分に撮鳥さんはムカついているようだった。


「ちょっとだけ昔話に付き合ってくれる?」


「はい。構いません」


 今は彼女に付き合おう。

 彼女の過去には興味もあったし。


「私が三浦に会ったのは中学一年生の四月。つまりつい先月のこと」


 何気なく撮鳥さんが三歳下であることが判明し、驚く暇もないほど中、過去の話を始めた。


「私は不思議写真を撮ろうと思って学校周辺の森を散策してたの。でも森は広すぎて私は迷子になっちゃったんだ」


 この学園は山頂にあり、周囲を広大な自然で囲まれている。迷子になるのも必然だ。


「私はもう帰れないと思って泣きわめいた。だけどそんな時、三浦は空から舞い降りた天使のように私の前に現れた。三浦は木に巻いた赤いロープを頼りに学校まであっという間に送り届けてくれた。それ以来私は三浦にゾッコンなんだ」


 三浦さんとの出会いを話す撮鳥さんは、話しているだけでも嬉しそうだった。

 彼女の活躍を少しでも知ってもらえることが嬉しいのだろう。

 実際、部室には三浦さんが写っている写真も幾つかあった。


「それでさ、日向」


「はい」


 撮鳥さんは僕の方へ身体を向けた。


「日向ってさ、魔法、使える?」


「……えっ!?」


 何を言われたのか理解できず、言葉をのみ込むまでに時間が掛かった。

 ようやく言われた言葉を理解した時、絶句した。


「ま、魔法って……」


「今朝森の中で日向を見つけたんだよね。観察してたらさ、なんか木に向かって一人でぶつぶつ話してたじゃん。だからてっきり日向は精霊と話をしているのかと思ったんだよ」


 精霊と話していることを勘で当てられ、内心息が詰まりそうだ。


「精霊なんているのかな」


「私はいると思うよ。信じていなきゃ不思議写真同好会なんて作らないもん」


「そうだね。いると良いね」


 きっと精霊が三浦さんの母さんを治してくれる。

 不思議な魔法で治してくれる。

 そうだったら良かったのに。


 もうすぐ二十四時を向かえる。


「ごめん撮鳥さん。僕はもう帰らなきゃ」


「うん。暗いから気を付けな」


 僕は闇夜に飛び込んだ。

 振り返ることはできなかった。


 森を走っていた頃、僕はヒルコに問いかける。


「ねえ、魔法で人を救えないの」


「いずれできるようになる。だが未熟なお前にはまだ早い」


 どうして僕には救えない。

 魔法は人を救えるって。

 そう信じていたのに。


 僕にはその力がない。

 その力が必要であるべき時に、僕はその力が使えない。




 二十四時になり、学園が異世界と接続する。

 愛六は片腕に包帯を巻きながらも、学園に足を運んでいる。僕が来ないわけにもいかない。


「穂琉三、何かあったのか」


 愛六は僕の様子がおかしいのを感じ、心配する。


「大丈夫。久しぶりの戦いで緊張してるだけだよ」


 そう言って誤魔化した。


「ヒルコ」

「了解」


 拳に火炎が纏わりつく。


 学園にわき上がるモンスターに向け、僕は感情の赴くままに拳を振るった。


「『火拳槌(カグヅチ)』」


 ああ、強くなりたい。

 早く、もっと早く、強く。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ