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一人一人に物語を  作者: 総督琉
第一章1『日向穂琉三の葛藤』編
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物語No.13『部活探し』

 五月五日。

 日向穂琉三が12ポイント。瀧戸愛六が22ポイント。


 七時。

 穂琉三はヒルコとともに毎朝のルーティーンを再開していた。

 寮のすぐそばにある森を一時間ランニング。その後腕立て伏せ百回、スクワッド百回。最後にヒルコに向かってシャドーボクシングを三十分間行う。


 ルーティーンが終わり、帰路につく。

 帰ろうとする穂琉三の前に、木陰に隠れていた愛六がミナカとともに姿を現した。


「穂琉三、おはよう。待ってたよ」


「お、おはよう」


 穂琉三は若干警戒したように挨拶を返す。


「脅えなくても良い。私はあなたを約束通り、カッコいい男にしてやろうって思ってここへ来たわけ」


 穂琉三はあまり信用していない。

 愛六を信用していないわけではなく、自分を信用していない。


「まずあなたがかっこ良くなるために必要なのは、慣れかな」


「慣れ?」


「あなたは人と関わることに慣れていない。話しかけられてまともな返答をできる自信はある?」


 もちろんない。

 愛六は返答を聞くまでもない。


「だからあなたには人との関わりに慣れてもらうのよ」


「僕が……?」


「そのためにあなたには部活に入ってもらう」


「部活……!?」


 穂琉三は言葉には出していないが、嫌だというのが表情から染々と伝わってくる。

 愛六もそれを承知だが、愛六の考えではそれが今の穂琉三ができる最も簡単な成長。


「ところでどの部活に入れば良いんですか?」


 それは気になっているところでもある。

 いきなり運動系の部活に入るにはリスクがある。特に運動系の部活は声出しをしなければいけず、チームワークが求められる。

 穂琉三には全くの不向きである。


 その上で愛六の答えは──


「そんなの自分で決めなさい」


 まさかの突き放しだった。

 苦手な部活に強制的に入部させられることはなく安堵したが、愛六の協力がないことに不安が芽生える。


「入る部活が決まったらどうすれば……」


「勝手に入りなさい。その部活の人と関係を深められたら合格ね。そしたら第二関門与えるから」


 愛六の指導は投げやりだった。

 結局のところ穂琉三の自主性に委ねられた。


「期限は一ヶ月。その間にできれは第二関門に入るよ」


 期限まで定められる。


「じゃあ私はもう行くから。あとは頑張りなさい。カッコいい男になるために」


 そう言って愛六は森の中に姿を消した。


 穂琉三は慌ててヒルコの方を向き、


「どうしよう。僕終わったんだけど。絶対ムリだよこんなの」


 今にも泣きそうな声で訴える。

 穂琉三は愛六から与えられた課題が無理難題であると思っていた。

 だがヒルコは平然と言う。


「なあ穂琉三、この学校には部活が山ほどあるんだろ。だったらたった数人しかいない部活もある。その中に穂琉三を受け入れてくれる優しい人の集まりもあるだろ」


 ヒルコの意見に穂琉三は一瞬考え、顔を上げる。

 ボソッと確かに、と呟くと、


「探してみよう。僕でも入れる部活を」


 己を奮い立たせ、部活を探すことを決意する。


 覚悟を決めた穂琉三とヒルコの背後。

 木陰からカメラを向ける影があった。

 木にぶら下がり、ぶれない手で確かに穂琉三を捉える。

 その影は呟く。


「精霊と話でもしているのかな」



 ♤



 昼休み。

 愛六のもとには多くの生徒が集まる。

 彼女は学級委員であり、クラスの多くの生徒から慕われていた。生徒からだけでなく、教師からも信頼され、頼られていた。


 時にケンカを仲裁し、時にサボっている生徒を叱りつけ、時にテストで満点をとる。


 分け隔てなく彼女は皆と接する。

 恨みを買うこともあったが、それ以上に彼女の行動力とその結果に誰も反論の余地がなかった。

 彼女は優秀だから。


「瀧戸さん、今日も部活代わりに来てよ」

「今度の水曜なら空いてるからその日ね」


「瀧戸さん、平均点が五十点にも満たなかった前回のテストで満点だったんでしょ。私にも勉強教えてください」

「いいよ。丁度明日の放課後暇だったの。図書館で勉強しましょう」


「愛六、帰り喫茶店行こうよ。新商品が発売されたんだよ」

「いいね。行こ行こ」


 彼女は多くの人の人望を集め、率先して多くの人と関わっていた。


 その横を、穂琉三が無言で通りすぎた。



 ♤



 放課後。

 僕はヒルコとともに共同区画にある部活棟を訪れていた。

 十階建ての建物には百以上の部活や同好会が入っており、放課後に最も賑わいを見せる場所の一つだ。


 人の往来は激しく、早速僕は足を止めていた。


「ねえヒルコ、やっぱやめない?」


「いざという時に臆病になってやがる。ここまで来たんだから行こうぜ」


 呆れつつも、ヒルコは背中を押す。


「分かったよ」


 だが覚悟を決めるまでの若干の時間がほしい。

 僕はその時間を作るように、ヒルコに話を振る。


「ところでヒルコの姿は誰にも見えてないの」


「私の姿は接続者以外には見えない。まあ、見せようとすれば接続者以外にも見せれるが、そんなことはしないな」


「じゃあこの光景を見られたら、僕は何もない空間に話しかけている変人って思われるね」


「普段喋らない奴がそうしていると尚更だな」


「辛辣すぎ」


 ヒルコの追い討ちに苦笑いで返す。

 前以上にヒルコとは気さくに話せている気がする。

 楽しいと思える会話を終わらせるのは残念だが、僕でも入れそうな部活を探さなければいけない。


「じゃあ行こっか。部活探しに」



 サッカー部にテニス部、バスケ部などの運動系の部活がある部室前は人の往来も一際激しく、気配を消してすぐに通りすぎる。

 入部希望だと思われて話しかけられるのは面倒だし、目が合うだけで極度のプレッシャーに襲われる。


 その道を通って気付いたのが、この時期にも入部希望者はたくさんいるということだった。

 既に十人以上入部希望者だと思われる人とすれ違った。


「ヒルコ、この時期に入部しても良さそうだね」


 入りやすい環境ができており、安心していた。


 しばらく歩いていると、人通りも減ってきて、部室の扉も閉まっているところが多くなり始めた。

 明かりがついているのは磨りガラス越しに分かるが、中の様子までは窺えない。

 さすがに僕に入れというのは酷だ。


「穂琉三、部活の様子とか学校から支給されてる端末で調べられないのか」


「……ああ、なるほど」


 学校から専用端末を支給されている。

 それは専用端末同士で電話することができたり、学校内の情報を調べることができる優れもの。

 学園での生活を豊かにするために全学生、教師に支給されているものである。


 調べてみると、学校内の部活動の情報も載っている。


「部員数が一人のところもあるみたいだね。そういうのは全部同好会になってるみたいだけど」


「狙いは同好会じゃないか。あまり大人数は得意じゃないだろ」


「うん。となると、結構上層に集まってる感じだね」


 僕は階段を上がり、八階に来た。

 ここも人の気配はない。


「でも扉が閉まってたらやっぱり中の様子が分からなくて怖いし……」


 結局変わらない。

 実際の雰囲気が分からない以上、行くのは怖い。


 僕は帰ろうかと迷っていた。

 弱い気持ちが背中を引っ張り、階段の方へ戻ろうと振り返る。

 背後には花壇があり、花が植えられていた。その花にカメラを向ける少女がいた。


「あ……っ!」


 思わず声を漏らす。

 その声で気付かれ、彼女は僕を見る。

 しばらく僕を凝視した彼女が一言、


「──見つけた」


 そう呟き、わずかに口角を上げた。


「ねえ、不思議写真同好会に興味はない?」


 同好会に誘われた……!

 一応同好会も部活として扱ってもいいよね。


 こんなチャンスは二度とない。


「あ、あります」


 思った以上に声が出た。

 相手はびっくりしている。


 部室に入り、僕は更に驚くことになった。


 窓を開け、縁に肘を置いている女子生徒が風に揺れながら振り返った。

 きれいに曲がった黒髪を垂らした眼鏡の女子。


 彼女を見て僕は一言、


「三浦さん……!?」

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