物語No.97『神妹境娘が語る真実』
六月三日。
放課後、穂琉三、愛六、奈落は神妹に呼ばれ、誰もいない第三校舎の空き教室で集まっていた。
「最近神妹から呼ぶこと増えたよね。何か心変わりでもしたの」
「さあ、どうでしょうか」
愛六がからかうように神妹へ言うが、神妹は相変わらず微笑んだまま表情を変えない。
「ではあなた方を呼んだ理由をお話ししましょう」
神妹は愛六のからかいをさらっと流し、本題へ入る。
「あなた方はこの世界が常に異世界からの侵攻を阻止しているということはご存知ですね。それについて詳しく話しておこうと思いまして」
「へえ、ようやくね。じゃあ聞かせてもらおうかな」
愛六は気さくに話しかけ、微笑を浮かべて耳を傾ける。
「この世界には毎日決まって二十四時から六時間、異世界と接続する時間が発生する空間がある。それらは全て十三山脈都市にある十三の山の頂上にある学園で発生する」
「確かにここも異境山の頂上にあるね」
「でもどうして学園なんですか?」
「この十三の学園が繋がる異世界は全て同じであり、魔法十家ら魔法使いが住まう世界から連れてこられているモンスターです」
穂琉三の問いかけに、神妹がそう答え、言葉を続ける。
「そもそもあれら十三の学園が繋がる異世界は全て後天的なもの。あれらは全て魔法十家を決める選別のために使われ、十星騎士団によって管理されています。ではなぜ学園にしたのか」
穂琉三らは息を飲んで答えを待つ。
「魔法家は才能を見極めるために最も適した時期を話し合った。結果、それは十六歳から十八歳までの三年間。だからこそ山頂にある十三の学園へそのシステムを築いたのです」
神妹が話した真実。
それは今まで穂琉三が知らされていたものとは異なっていた。
「ちょっと待って。今まで僕らは異世界からの侵攻を防ぐために戦っていると思っていたけど、それは違ったってこと」
「はい。あなた方に戦っていただくためには、それが最も話が早いと思いましたので」
「ふーん。ま、確かにあんたの言う通りかもね。ぶっちゃけあの頃の私たちが魔法十家だの話を聞かされていたら、どんだけ長話になるのってことだし」
愛六は肘をつきながらため息混じりに言った。
「とはいえ、異世界から侵攻を受けているというのは、あながち嘘というわけでもないんですよ」
唐突な神妹の切り返しに、愛六は呆れたように口を開ける。
「はぁ? いよいよ意味分かんないんだけど」
「先ほど話した通り、十三の学園は異世界へ接続していますが、それは十星騎士団による自作自演。しかしそれをするのは、それ以外の場所でこの世界が異世界の侵攻を受けているからなんです」
「本当に侵攻を受けているから、その慣らしとして十三学園が存在しているってこと?」
「はい。そういった意味もありますね」
「あっそ……」
愛六は肘をついた手に頬を預け、退屈そうに窓の外を見ている。
「ちなみに今まで万を超える異世界がこの世界へ侵攻を行ってきました。しかしそのどれも若き接続者によって倒されてきました」
「そういえばさ、十三の学園だけしか異世界と接続してないって話だったよね。でもさ、接続者は私たち以外にも百人以上の接続者がいるらしいし、でも私は今まで行った学園で接続者は一学園につき一人か二人しか接続者がいなかったよね。その場合さ、上位十人が獲得できる異世界へ行く権利ってさ、十三学園にいない生徒が獲得できる可能性ってなくない」
愛六はこれまでの二ヶ月で情報を収集していた。
それらをもとに今の疑問を呈した。
「そういえばあなた方は知りませんでしたね。ポイントというのは扉を閉める度に獲得できますが、それだけじゃない。例えば黒薔薇学園での事件であなた方は5ポイントを獲得しました。そのように、実は他にもポイントを稼ぐ方法はあるんですよ」
「あんた隠しすぎでしょ。そのせいで私たちが上位十人に入れなかったらどうするのよ」
「確かにそうですね。ではそろそろそれらも含めて情報を公開しましょう。そしてあなた方が最も気になっているであろう、"ランキング"も」
愛六の目は見開かれるが、あくまでも平静を装う。
穂琉三と奈落は興味津々という表情を隠すことなく、神妹を凝視する。
「まずはポイントについて話をしましょう。実はこの世界に出現する扉は十三学園だけではない。我々も出現まで一切感知できない扉、つまりは異世界からの侵攻により発生する扉が頻繁に出現しています。一日で出現する扉は推定、大小問わず百近くですね」
「百も……!?」
穂琉三は目を見開いて驚く。
「はい。十三学園に所属していない生徒は皆、それらの扉を塞ぐことで日々ポイントを稼いでいます。まあ所属している学生もそれらを封じに行っていますが。そしてもう一つは、先日起こったようなイレギュラー。それらの事件では、事件の大きさによって与えられるポイントの量が変わります」
「あの時は5ポイントだったし、結構稼げるな、とは思っていたけど。まあイレギュラー限定ならあまり期待しない方が良いみたいね」
愛六はそう答えつつ、本命を待っていた。
「では次に十三学園に所属できる仕組みを教えておきましょう」
愛六は本命がまだなことに少しため息を漏らす。
「十三学園の内の十はその時点での魔法十家が選んだ接続者となります。そしてその者は十三学園から選ばれる。残り三つは前の期で十一位から十三位に位置した魔法使いの魔法家から選抜される」
「被ってた場合はどうなるの?」
「その場合は二つ。一つは、一つの魔法家が二人まで接続者と契約できるため、二人の接続者を別々の学園へ送り込む。もう一つは、その座が繰り下げされ、別の魔法家へ移動します」
「へえ。でも今回はそんなことなさそうだね」
「今回はいませんね」
「でも僕の見た感じさ、ほとんどが接続者一人だけだよね」
「それはあれでしょ。どう考えても不利だからでしょ」
「不利?」
首をかしげる穂琉三に、愛六はため息をこぼす。
「うちらさ、十三学園にいるにしてはポイントは二月ちゃんや一国らと比べれば遥かに低いの。だって接続者が二人いても、出現する扉は一つだから」
「そっか。じゃあ僕らの順位って……」
「後々ランキングは発表しますが、自分の大体の位置は察したのではないですか」
「まあね。でもまあ不定期に出現する扉で稼げばなんとななるんじゃないの」
「はい。それに関しては基本的には運ですが、やはり魔力感知を覚えておいた方が良いでしょう。その能力があれば、扉が出現した際、感知できますから」
「教わってないのにできるわけないじゃん」
愛六は気だるげに答える。
「私は基本的にはフェアですから。そのため今晩教えてあげましょう」
「……は?」
まさかそんなことを言うとは思わなかったのか、愛六は口をポカーンと開いて神妹を見る。
「最初の二ヶ月間、十三学園の接続者には稲荷や八百比丘尼のような助っ人を、その他接続者には精霊がサポートについていました」
「精霊……?」
「はい。しかしあなた方の精霊とは違い、魔法のサポートはしてくれません。手伝ってくれるのは扉の感知、接続している魔法家との連絡、などです」
「ふーん。そっか。まあ多少十三学園が有利であるけど、確かに……フェアかな……」
愛六は唸るように呟く。
「はい。そういうわけで、私はヒルコさんとミナカさんには色々黙ってもらっていたわけです」
神妹の今までの沈黙の意味を知り、愛六は少し納得した表情を見せる。
そして愛六にとっての本命が語られる。
「ではこれより、第100期接続者ランキングを発表します」