物語No.95『強くなった接続者』
六月二日。
真夜中の異境学園で、穂琉三と愛六は戦闘を繰り広げていた。
「『火拳槌』」
「『水槽の君』」
炎の拳がモンスターを吹き飛ばし、水玉が相手の顔を閉じ込める。
次々とモンスターが倒されていく。
それを稲荷と神妹はじっと観察していた。
「明らかに強くなったのだ」
「はい。さすがは未来の希望ある接続者ですね」
穂琉三と愛六は四月に比べて明らかに強くなっていた。
モンスター一体を倒すことのさえ苦戦していた彼らは、今ではどんなモンスターに対しても柔軟な対応を見せている。
たとえ相性が悪い相手が現れたのなら、即座に引き下がり、仲間に戦闘を託す。
それでも倒せないのなら、二人で協力して敵を倒す。
二人は扉の近くへたどり着く。
だが扉のそばには二足歩行の牛がいた。
牛の全身は牛毛に覆われ、指先には鋭い爪がついていた。
「『水槽の君』」
愛六は牛の背後に水玉を出現させ、そのまま牛の頭を覆った。
しかし牛は後頭部に水玉が触れた瞬間に前進し、鋭い爪を愛六へ向けて振るった。
二人は左右へ飛び、牛の魔物を挟み込んだ。
愛六は拳に魔力を集中させ、穂琉三は拳に火炎を宿す。
「『魔拳』」
「『火拳槌』」
両脇から拳が牛の魔物へ炸裂した。
しかし牛の魔物は怯むことなく、腕を乱雑に振るって愛六と穂琉三の腕に傷をつけた。
「毛皮が想像以上に硬い」
「僕の炎も完全には通らなかった」
二人は再び牛の魔物から距離をとる。
「『水槽の君』であれば否応なく奴は倒せる。だが奴の素早さはそれを容易に回避することができる」
「となると、ひとまず奴の動きを封じる必要があるな」
「封じるってどうやるの? 別の方法を模索するのもありじゃない?」
「まあ攻撃が通りにくいってだけで、通らないわけじゃないからね」
穂琉三は自身が拳を打ちつけた部位を見る。
牛の魔物の脇腹には一部だけ黒く変色した場所がある。
微かに穂琉三が敵を見据える中、遠くから見つめる神妹は呟く。
「ねえ稲荷、二年後の彼を想像できる?」
「うーん、難しいのだ。だって成長スピードが早くて、どれだけ強くなるのか未知数なのだ」
「ええ、確かにそうですね。日向穂琉三だけじゃない。瀧戸愛六、一国百、二月銀、その他にも多くの接続者がいるこの世界で、彼らが今どれほどの"ランキング"にいるか、そろそろ伝えてもいいでしょう」
神妹の視線の先。
そこでは穂琉三が拳にありったけの魔力を集めていた。
「未だ魔弾は習得できていない。だが拳サイズであれば、そこへ魔力を集中させることだってできる」
拳に纏った魔力全てを使い、炎へ変換する。
穂琉三の拳を燃え盛る炎が覆う。
牛の魔物が地面を蹴り、勢いよく穂琉三へ突撃する。
その素早さに穂琉三が対応できるかは賭け。
穂琉三へ爪が届く寸前、水玉が牛の魔物へ覆い被さった。
咄嗟のことに牛の腕が大きく空振りし、空いた胴体へ穂琉三は力強く拳を叩きつけた。
「『火拳槌』!」
牛の魔物を覆う毛皮も黒く燃え、毛の隙間から炎が魔物の身体を焼く。
牛の魔物が嗚咽を漏らして膝をつくが、その間も水玉が覆い続けていた。
重い一撃を受けた牛の魔物はすぐには動けず、水玉の中でもがくように溺れた。
牛の魔物が絶命の後、穂琉三が鍵を扉へ差し込んだ。
やがて学園中のモンスターが全て光の柱に貫かれて消滅した。