プロローグ
目の前に扉が現れたら、あなたはどうするだろうか。
扉の先に非日常が広がっていたとしたら。
例えばそれが異世界だったら。
迷わず扉を開くだろうか。
最近、学校ではこんな噂が流れていた。
道を歩いていると、突然目の前に扉が現れる。建物についた扉ではなく、扉だけがポツンと。
ある者は扉を開いた。
扉の先に何が広がっていたか。
扉の先には異世界があった。
異世界、ただそれだけが分かっている。
異世界と言うからには、現実世界とは乖離した世界が広がっていたのだろう。
燃え盛る炎の大地を歩く龍や、木のように天に延びる海を泳ぐマーメイド、様々な時間が重なりあった空間など。
きっと彼らは現実ではあり得ないような世界を見た。
もし目の前に扉が現れたら。
扉は一様に全て同じではない。
時に木材、時に鉄、時に異世界由来の素材が使われる。
扉の形状や装飾に決まりはなく、扉はその人に合った様相で現れる。
僕の前に現れた扉はいたって平凡な扉。
木製の板にドアノブがついているだけの扉。
僕は扉の意味も考えず、ドアノブに手をかけた。
本来は迷うべきだったのだ。
異世界へ行くことの意味を考えてもいなかった。
現実から逃避をできるなら。
現実から目を逸らせるなら。
異世界で新しい人生を歩めるなら。
現実から逃げることだけを考えて、僕は異世界へ繋がる扉を開けた。