人間をやめて悪魔になったら
あぁ、私は何も出来ないのか。バイトをやめたのはこれで6回目になる。
いっそ人間をやめて、天使か悪魔にでもなれればいいのに。
そう思いながら寝た。
夢を見た。
楽になりたいか?
声が聞こえた。
人間の魂を食うだけでいい仕事をしないか。
それって楽しいの?
私は聞いた。
あぁ、楽しいし楽にできる。それに、人間を今すぐやめることができるぞ。
やってみたい。私はすぐに答えた。
そうか。思う存分楽しめよ。
目が覚めると、なぜか異様に身体が軽い。体だけではない。心もなんだかすっきりしている。
何か余計なものがなくなったみたいだ。ベッドには私が寝ていた。いや、死んでいたと言うべきか。
そばには悪魔がいた。
人間の魂を食うには、まず人間を魂だけの状態にする必要がある。
でも俺たちは人間の体に触ることはできない。でも、魔を刺すことはできる。
お前の爪を見てみろ。
私の爪は黒く、長くピンと伸びていた。
体に干渉はできないが、精神には干渉できる。
あそこに仲の悪い人間どもがいる。実際に見せてやろう。ついてこい。
隣の高いマンションに飛んでいった。私もついていった。黒い羽根をばたつかせて。
今日は結婚記念日だったのよ!どうしてあなたはそういつもいつも…
うるせぇなぁ。こっちは仕事で疲れてんだよ。
私だって疲れてるわよ!あなただけが辛いみたいに言わないで!
はぁ?そんなこと言ってねぇだろ。てかもう夜中だろ。静かにしろよ。
あなたが夜中に帰って来るからでしょう!いっつもいっつも仕事仕事って、どうせ大したことしてないくせに!あなたは昔からそうよ!いつも大げさで、大したことしてないくせに俺はよくやってるって顔して威張り散らして。ほんと恥ずかしいったらありゃしないわ。
はぁ?
今だ。悪魔が言った。そして、悪魔は男を長い爪のある手で刺して、こう言った。
あのうるさい女を黙らせてやれ。お前の威厳を見せつけるんだ。そして男から爪を抜いた。
男は女に向かって行き、思いっきりグーで殴った。
女は倒れた。そして男をキッと睨んだ。
男は我に返る。
あっ。…。男は顔をそむけた。
女は男から視線をはずし、倒れた状態からゆっくりと起き上がり、座り込んでいる。そして、口を開いた。離婚しましょう。このこと、お父様に言いつけますから。慰謝料もしっかり払ってもらいますから。あなたの会社も、あなたが妻に暴力を奮って訴えられたって知ったら、あなたはどうなるでしょうね?
男はそれを聞き、お前が余計なことを言うからだろ。お前が悪いんだ。と反論した。
女は男の方を見ようとしない。
女は立ち上がって身支度を始めた。
おい、どこに行くんだ。男は女に近寄る。
来ないで!
おい、待て!
男は女の腕を掴む。
ここで悪魔はもう一度男に爪を刺す。あの女を黙らせるんだ。そうじゃなければ、お前はどうなる?そして爪を抜いた。
触らないでって言ってるでしょ!女は叫ぶ。
男は、本当に考え直す気はないんだな?と女に聞く。
女は耳を傾けず、うるさい!放して!と叫んでいる。
そうか。男は言った。そして、もう一度女を殴った。そして倒れたところを見計らって、首を絞めた。
悪魔はよしよしと言いながら、両手を胸の前で合わせ、片手ずつ上下に動かしている。
私は女がもがき苦しんでいる様子をまじまじと眺めた。
少しの女のうめき声と男の力む声、そしてドン、ドン、という女の足の音がランダムに響いていたが、やがて何も聞こえなくなった。
男はそれでもなお首を絞めている。しかし、すぐに我に返った。
ハッと言った後、男は後ずさりした。
そして、悪魔がもう一度爪を刺した。女は黙らせることができた。しかし、お前は何をした?これからお前はどうなる?考えてみろ。
男は叫びだした。
そして、ベランダから飛び降りた。
悪魔は、どうだ。完璧だっただろ?と言い、ニヤついている。何が完璧だったのだろうか。
おい、特別に女の方をやる。俺は男を食ってくる。悪魔が言った。悪魔は男を追いかけた。
私は女から出てくる黄色いもやっとした塊に近づいた。すごくいい匂いだ。
綿菓子をちぎって食べるみたいに、それを一口食べてみた。私はそのおいしさに感動した。
もう一口、もう一口と食べ、あっという間になくなってしまった。
なんだか力が湧いてくる。
どうだ。うまかっただろう。いつの間にか悪魔が後ろにいた。
うん。凄く美味しかった。私は言った。
これからはお前の力でやってみせるんだ。いいな。
そう言って悪魔はどこかに言った。
もう一回食べたい。私にあるのはそれだけだった。
まずは周りにいる人間を観察することから始めた。
そういえば、あの悪魔の名前を聞きそびれたな。
まぁいいか。もう一度会うかどうかもわからないんだし。
一方でその悪魔は。
あ、あんまり食べ過ぎるなよって忠告するのを忘れた。まぁいいか。
それからしばらくたった。ほんとに長い時間が経った。はずだ。
私は立派な悪魔になっていた。この仕事は最高だ。最初はてこずったが、慣れれば簡単な仕事だ。
ニュース通りなら今日は21個も魂を食えた。でも、まだだ。まだ足りない。
おい。と声が聞こえた。聞き覚えのある声だったので振り返った。
久しぶりだな。元気にやってるみたいで何よりだ。ちょっと上からお前に呼び出しがあってな。
ついてこい。
私は再び悪魔についていった。
すると異様な空間についた。心地いいような不快なような、よくわからない感覚がする。こんなのは初めてだ。
ここは地獄だ。悪魔が言った。閻魔様が起きた。挨拶しろ。そう言ってでかい何かの前で止まった。
でも、何をどうしろと言うのだ。そこにいろ。そう言って悪魔が遠ざかる。困っていたら、でかい何かから何かがこちらに伸びてきて、私を掴んだ。わたしはそのまま引きずり込まれた。なんだろう。何か、やばい気がする。悪魔の方を見ると、胸の前で両手を合わせ、片手ずつ上下に動かしている。
そうか。私は悟った。恐怖はない。あ~あ。もう少し、食べていたかったな。そして意識が切れた。
一方で悪魔は、ふう。あいつがいてくれて助かった。あいつがいなきゃあ食われてたのは俺だっただろうな。それにしても、完璧だった。とニヤついている。
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