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第六十五話

 目を覚ました私は、自身の目から涙が伝っていることに気付いた。

 直接会ったことはないが、本物のローズとは知らない仲ではない。

 夢の中で何度も会っているうちに、いつの間にか情が湧いてしまったようだ。


「今の夢が最後ということは……ローズは近々、処刑されてしまうのね」


 実際には処刑の前に私と入れ替わって、私の代わりにあっちの世界で死ぬ。

 方法の違いはあるが、ローズには死が確定している。

 ローズは悪いことなどしていないのに……運命に抗おうとしていたのに……。


「そんな状況で赤の他人の『私』に自由に生きて、なんて言って……人間が出来過ぎているわ」


 とても『私』では、ローズのようなことは言えない。

 私がローズの立場なら、きっと自分を嵌めた犯人を探して復讐をしてくれと頼んでいた。

 それなのにローズは私に、好き勝手に生きていいと言った。


「どんな人生を歩んだら、あの年齢であんなことが言えるのよ」


 しかも笑顔を浮かべつつ私を勇気づける言葉で締めくくるなんて。

 『私』ではなく、こんなにも素敵なローズが死ななくてはいけないなんて…………やるせない。


「……自分の扉をあけて、か」


 私は涙を拭うと、自身の両頬を叩いた。


「ウジウジ泣いててどうするのよ。今の私は完全無欠の公爵令嬢、ローズ・ナミュリーよ!」


 誰よりも自由に生きるローズ・ナミュリー。

 それが、彼女の願いなら……!



   *   *   *



 『死よりの者』に関わった生徒たちは、生徒会室に呼び出された。

 ただしウェンディが最初に『死よりの者』を倒した際に一緒にいた二年生の生徒と、ルドガーの友人はこの場にはいなかった。

 二年生の生徒はこれ以上『死よりの者』のことに首を突っ込みたくないと断ったらしく、ルドガーの友人は精神的ダメージによって寝込んでいるらしい。


 これにより生徒会室にいるのは、エドアルド王子、セオ、ナッシュ、ルドガー、ウェンディ、ジェーン、私の七人だ。

 最後に生徒会室に入ってきた私に、全員が注目した。

 特にウェンディの視線が鋭い。


 もしかして町でのルドガーとのデートを邪魔したことを怒っているのだろうか。

 ……それに関しては、悪かったと思っている。

 二人のデートを邪魔したかったわけではないのだが、成り行き上、ウェンディの聖力が必要になってしまったのだ。




「ジェーン、長旅ご苦労様。早速だけど、本を読んで分かったことを教えてくれるかな?」


「はい。例の魔物は『死よりの者』で間違いないでしょう」


 エドアルド王子は面倒くさい前置きを省いて、いきなり本題を切り出した。

 指名されたジェーンも、すぐに立ち上がって話し始めた。


「『死よりの者』は、通常の魔物とは異なる魔物です。いいえ、魔物と呼んでいいのかどうかもよく分かりません。大陸ではこの魔物の目撃例がないどころか、存在を知られてすらいないのが現状です。『死よりの者』が唯一現れたのは、東にある小さな島国だけですから」


 東にある小さな島国とは、日本のことだろう。

 ……この世界では、すでに滅んでしまったらしいが。


「小さな島国の話なら、大陸に入って来ないのも無理はないね」


 エドアルド王子の相槌に、ジェーンは頷いて鞄から本を取り出した。


「私は『死よりの者』の話を、とある行商人の売っていた一冊の本で知りました。後にも先にも『死よりの者』の話が書かれていたのはこの本だけです。他にも『死よりの者』の本が読みたかったのですが、その行商人とは二度と会うことが出来ず……」


 ジェーンの持つ本は、出版社から出されたもののようには見えない。

 同じことをエドアルド王子も思ったようで、ジェーンに質問が飛んだ。


「はい。この本は個人的に書かれたものだと思います。記されているのは著者名のみですから」


「個人が書いたというだけでは、嘘だとも、逆に本当のことだとも言えないね。それは出版社を通した本にも言えることだけれど……では中身について教えてくれるかい?」


 ジェーンは大きく息を吸うと、本の内容を語り始めた。



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