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第二十五話

 消灯時間が過ぎ、静まり返った女子寮を一人で歩く。

 装備は、左手にランプ、右手に木刀。


 『死花の二重奏』はホラーゲームでもあるため、消灯時間になると廊下の電気が消され、寮内は真っ暗になってしまう。

 ランプの光を頼りに進むが、ランプの明るさなどたかが知れている。


「貴族の令嬢が通う寮がこれは駄目でしょ!? 上納金をいっぱい貰っているんじゃないの!?」


 静かな寮内で自分の足音だけが響いているこの状況が怖くて、独り言を言ってみた。

 だけどそれで怖さが消えたかと言うと、むしろ暗闇の中から誰かの返事が聞こえてきたらどうしようと余計に怖くなった。


 コツ、コツ、とひたすら自分の靴音だけが響いている。


 『死花の二重奏』は純粋なホラーゲームと比べるとお子様レベルのホラーらしく、普段ホラーゲームをやらない私でもクリアすることが出来た。

 しかし自分がゲームの中の登場人物になるなら話は別だ。

 暗く長い廊下を歩き続けているだけで、早くも心が折れそうだ。


「……着いたわ」


 待ちに待ったウェンディの部屋だ。

 一刻も早く一人から解放されたい。

 はやる気持ちを抑えて、もう一度部屋番号を確認してからドアを軽くノックした。


「どなた?」


 予想通りウェンディは寝ていなかったようで、部屋の中から疲れたような声が聞こえてきた。

 きっと寝ずに図書館の鍵を探しているのだろう。

 深夜まで探し物をさせていることにチクリと胸が痛む。


「同じ特進科のローズ・ナミュリーよ」


「こんな時間に何のご用でしょうか? もう夜も遅いので、明日では駄目でしょうか?」


 乙女ゲームの主人公は迂闊なイメージがあるが、ウェンディには最低限の警戒心があったようだ。

 部屋のドアを開けずに会話を続けている。


 それなら、ウェンディがドアを開けたくなる話を披露するまでだ。


「実は私、宝石箱の鍵を落としてしまったの。それでみんなに知らないか聞いて回っていたら、一階の女子トイレに鍵が落ちているのを見たという生徒がいたの。すぐに探しに行こうと思ったのだけれど……探しに行く前に消灯時間になってしまって」


「一回の女子トイレに…………鍵?」


「ええ。でも消灯時間になったから明日探しに行こうと思ったのだけれど……こうしている間にも誰かに拾われるかもしれないと思うと、いてもたってもいられなくて」


 ウェンディは私の話に耳を傾けているようだ。

 あと一押し。


「だから今夜のうちに一階の女子トイレを見ようと思ったのだけれど、昨夜あんな事件もあったし、一人では心細くて。そんなときにあなたのことを思い出したの。あなたなら聖力でどんな魔物でも追い払えるのでしょう? お願い、私と一緒に来てちょうだい」


 もちろん宝石箱の鍵うんぬんは真っ赤な嘘だ。

 だけど女子トイレに鍵が落ちていると言えば、図書館の鍵を探しているウェンディは藁にも縋る思いでついてくるに違いない。

 消灯後の女子寮は暗くて不気味だが、聖力のあるウェンディには怖いものなど無いのだから。


「……少し、待っていてください」


 数分後、ウェンディが部屋のドアを開けて廊下に出てきた。

 その際にチラッと見えた部屋の中は、泥棒でも入ったのかと思うほどに散らかっていた。

 あの少ない家具の、どこにそんなに入っていたのかと思うほどの小物が床に散らばっている。


「……ローズさんは、武器を持っているのですね」


 ウェンディは開口一番、私の持つ木刀を見てそう言った。


「武芸の心得は無いけれど、丸腰よりはマシだと思って持って来たの。とはいえ相手が力持ちだったらすぐに奪い取られるでしょうけど」


 別に私が『死よりの者』を倒す必要はない。

 そもそも私には倒せない。

 私はウェンディが聖力を発動させるまでの時間が稼げれば、それでいい。


 ローズの細腕でも、少しくらいなら木刀を振り回せるだろう。

 敵に当たるかは別として。


「私はランプだけしかないのですが、平気でしょうか?」

「あなたの武器は聖力よ。聖力さえあれば怖いものはないわ!」


 だからウェンディ、聖力で『死よりの者』を倒して。

 犠牲者が出る前に。



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