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第十三話

 休み時間になった途端、ウェンディは生徒たちに囲まれていた。

 きっと誰もが事件のことが不安で、ウェンディの近くにいることで安心したいのだろう。


 ふと教室を見渡すと、浮かない顔のジェーンの姿が目に入った。


「どうしたの?」


「え!? ローズ様!?」


 私が近づいてくることに気付かなかったのだろうジェーンが、裏返った声を上げた。

 声を上げると同時に急いで閉じた教科書には、落書きがされているようだった。


 生徒の大部分が貴族のはずなのに、ずいぶんと幼稚なことをする。

 そもそもまだ入学したばかりだというのに。

 ジェーンは中等部からのエスカレーター組らしいから、同じエスカレーター組の仕業なのだろうが。

 こんなことをする暇があるなら自分を磨けばいいものを。


「ねえ、ジェーン。これからも休み時間にこうしてお喋りをしに来てもいいかしら?」


「ローズ様に来させるなんてとんでもございません! 私がローズ様の元へ行きますので……と言いますか、クラスで私と仲良くするとローズ様の評判が落ちてしまうかもしれないので、その、やめた方が」


 ジェーンの声はだんだんと小さくなっていき、最後には聞き取れないほどだった。

 悲しそうにしているジェーンの前で、私は自身の胸に手を当てた。


「私を誰だと思っているの? ローズ・ナミュリーよ? 誰と一緒にいようが私の評判が揺らぐことは無いわ」


 私が胸を張りながら言うと、ジェーンは尊敬のまなざしで私を見つめてきた。

 可愛らしいやつめ。


 幸いにも私は、公爵令嬢で『黒薔薇の令嬢』と呼ばれるローズだ。

 地位が高く、しかも裏で不気味だと恐れられている私と仲が良いことが知れ渡れば、ジェーンがいじめられることはなくなるかもしれない。

 せっかくローズになったのだから、こういうときはローズであることを利用させてもらおう。


「やあ。ローズはこのクラスかな?」


 私がそんなことを考えていると、教室の入り口に華やかな人物が現れた。

 エドアルド王子だ。


「ローズはここにおりますわ、王子殿下」


 返事をしてから、自分なりの優雅な歩みで王子の元へと向かった。

 ウェンディに集まっていた視線の一部がこちらに向いた気配がする。


「入学おめでとう、ローズ。昨日は忙しくて君に会うことが出来なかったから、今日一緒にランチを食べないか誘いに来たのだけれど。どうかな?」


「はい、よろこんで」


 思わず居酒屋のような返事が出てしまった。

 だが推しとの初会話な上にランチに誘われたのだから、素が出てしまうのも仕方がないだろう。


「ところでこれは何の集まりかな?」


 エドアルド王子が、今や人だかりになっているウェンディを指した。

 ここで正直に答えると、王子がウェンディに興味を持つきっかけになってしまうが、王子に問われたのでは答えないわけにもいかない。


「先程の授業で、あの人だかりの中心にいる女子生徒が聖力を持っていることが判明したのです」


「へえ、聖力か。すごいねぇ」


 ゲームで見たイベント通りに、エドアルド王子がウェンディに近づいた。

 数秒前まで私を見つめていた青色の瞳が、今やウェンディを捕えている。

 そのことに気付いた生徒たちは空気を読んで道を開けた。


「初めまして。僕は生徒会長のエドアルド。突然だけれど、君が聖力を持っていると聞いてね。ぜひ話を聞かせてくれないかな」


 ウェンディは王子に話しかけられたことが信じられないとばかりに大きな目を何度も瞬いている。


「これからローズと一緒にランチを食べる予定なのだけれど、君も一緒にどうかな?」



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