○≧≫9≪≦● 【非常識な事態を科学的に考察】
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「……今こっち見えてるの?」
小さなガラスコップに入れた麦茶を飲みながら、オレは消えている状態になっている紡に話しかけた。なんとかこの非常識な事態を科学的に考察してみようとオレは試みる。
『目でものを見る』ということは『眼球がレンズとして機能しなければならない』ハズだ。
瞳孔から入った光を光彩で調節し、目の中の水晶体で光を屈折させたあと硝子体の中を通過して、目の奥にある網膜に焦点を結び、その光が電気信号として視神経から脳へ伝達され、最終的に脳が物の色と形を認識する。
それが『目で物を見る』ということだ。
……ったと、思う。たしか。
しかし、目の前にいるはずの紡はどこが目でどこが口やらも分からない。
『瞳孔や光彩』自体が全くの無色透明でなんの凹凸もないならば『目のレンズ機能』が果たせないし、網膜も透明なので光の屈折を『網膜に投影する』ことができない。
つまり完全に無色透明な『目』は、『目で見て物の形を認識することはできない』ハズだ。
だから、透明状態の紡の目にはなにも見えているはずがない!
「……?見えてるわよ。当たり前じゃない」
なにをいってるのだこいつは、という紡の声が目の前の空間から聞こえてきた。どうやらオレの科学的考察は無意味で無駄だったらしい。一生懸命考えたのに……。
それに、透明な時の紡は『口の中』も透明らしい。目の前のオレに向かって話している時も唇や口の中の動きが見えない。ただ紡が使っているミント歯磨きの息の匂いがするだけだ。
身に着けている衣服も透明だし、内臓とかも透明なのだろうか。
だとしたら、その『内容物』も…とオレは連想して、そこで止める。いくら幼なじみとはいえ女の子に対して考えていいことではない。
「原理はなんだろう?」
考えても分からないオレは逆に紡に質問する。そもそも、これは紡が考えるべき問題である。
「『体質』じゃないの?こんなの原理もくそもないわよ。使ってて疲れたりとか頭痛くなったりとかもないし多分何回でもできそう」
そう言って紡は、また消えたり出現したりを繰り返す。
『体質』。
両手のキツネさんでチューしたら透明になれるという、『体質』……。
あるか、そんなもん。
…To Be Continued.⇒10
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