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透明探偵物語  作者: アマノヤワラ
7/14

○≧≫7≪≦● 【状況再現とその観察】

≈≈≈


≈≈≈


「……その状況再現できる?」


 そう、オレが言うと(つむぐ)はベッドから立ち上がり勉強机の椅子に座る。小学校のころから(こいつ)が使っている、机の横のハンドルを回すと高さが調節できる木の机である。


「『ヒマね』……」


 椅子に座った途端に、(つむぐ)が突然つぶやいた。

 『その状況を再現』しろとは言ったが、まさかセリフ付きとは……。


 (つむぐ)は机に座って左手で頬杖をつき部屋の窓の外を(なが)めながら、黙ったまま右手だけで手遊びを始めた。その視線は窓の外のオレの部屋の方をぼんやりと見ている。

 オレは座っていた床の上から立ち上がり、手に持っていた麦茶入りの小さなガラスコップを(つむぐ)の机の(はし)に置いて、辛抱(しんぼう)(づよ)くその様子を観察する。幼い頃からこいつ(紡)に振り回されているオレには『(こいつ)の行動を大人しく待つ』という条件反射のようなものがいつの間にか体に染み付いていた。


 (くちびる)に人差し指の指先をつけて、えーと…なんだっけ…とか言いながら(つむぐ)はさっき起こったことを正確に思い出そうとする。そこまで正確さ求めてない…とオレは思ったが口には出さない。


 辛抱強(しんぼうづよ)く腕を組み、オレは(つむぐ)の様子を観察する。


「『えいっ』!」


 また自分の状況再現にセリフを付けながら(つむぐ)は、おもむろに右手と左手で『キツネさん』を作り二匹に『チュー』をさせる。すると、(つむぐ)椅子(いす)の上の空間から忽然(こつぜん)と消えた。


 立ったまま観察を続けるオレは、(つむぐ)がいるであろう椅子(いす)の背もたれの後ろに自分の手のひらを向ける。見えないが、オレの手のひらに(つむぐ)の体温の感触があった。

 どうやら(つむぐ)は、光を遮断(しゃだん)して体と身に着けている物を透明化できるだけのようだ。透明化した後も、(つむぐ)の『肉体』と『その熱』はその場にあり続けている。


「ヴァニラ・アイスじゃなくてアクトン・ベイビーの方か…」


 オレの好きな聖典(マンガ)記述(きじゅつ)を元に、オレはオレなりに分かりやすいように解釈(かいしゃく)する。

 オレは「……続けて」と透明な(つむぐ)(あご)をしゃくって合図(あいず)を出す。


「……『あれ、わたし消えてる』?」


 またセリフ付きで(つむぐ)が状況再現を再開した。

 紡の勉強机に置かれていた小さなスタンドミラーが揺れる。多分、透明化した紡がオレに分かりやすいように、指でつんつんしているのだろう。変なとこ芸細(げいこま)な奴だ。


 (かがみ)の表面を見ても(つむぐ)の姿は映っていない。


 突然、パッとオレの目の前の椅子(いす)の上に、(つむぐ)の姿が出現した。その両手は『キツネさん』の形のままだったが、『チュー』はさせていない。

 戸惑(とまど)ったような演技で紡がつぶやく。


「……『なにこれ』?」


 オレは椅子(いす)の後ろに立って腕を組み、辛抱強(しんぼうづよ)く紡の観察を続ける。


「……『なにこれ』?」


 もう一度同じセリフを言った(つむぐ)は、また両手の『キツネさん』にお互い『チュー』をさせる。紡が忽然(こつぜん)と消える。


 またすぐ出現する。現れた紡は両手を『キツネさん』にしたまま『チュー』はさせていない。


 また紡は、両手の『キツネさん』に『チュー』をさせる。紡がまた忽然(こつぜん)と消える。


 オレは椅子の後ろに立って腕を組み、辛抱強(しんぼうづよ)く紡の観察を続ける。

 (つむぐ)は消えるときも現れるときも『()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()忽然(こつぜん)と消え、また突然現れている。


 そして、現れたり消えたりを何度も繰り返した(つむぐ)はおもむろにこう言った。


「……『そうだ、健太郎に見せてみよう』!」


 姿を現した(つむぐ)はそうつぶやくと、部屋の窓に向かい「ガチャッ…」っと口に出して窓を開ける仕草をしたあとで、オレの方を振り向いた。



「……こんな感じだったわ、たしか」


 (つむぐ)は真剣な表情をしている。


「そうか……」


 窓枠(まどわく)に手をつき、オレを見つめる(つむぐ)()()ぐな眼差しを正面から受け止めたオレは、腕を組み真剣な表情で(うなず)きを返した。



…To Be Continued.⇒8

≈≈≈


≈≈≈

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