○≧≫6≪≦● 【ホームズとワトソン】
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なにも見えない空間から食らった予期せぬ平手打ちの衝撃から立ち直ったオレは、紡の部屋から一旦退室して、一階にある紡ん家の台所から拝借した冷蔵庫の氷を風呂場から拝借したタオルに巻き左頬に当てて、さっき紡に打たれた部分を冷やした。台所に行ったついでに、紡とオレの分の飲み物を準備して部屋に戻る。
ちゃんと事前に言っといたのに、紡は飲み物を用意してはいなかった。
『突然、幼なじみから二回胸を揉まれた』ショックから立ち直った紡は、まだ痛む左頬を冷たいタオルで抑えながらフラフラ部屋に入ってきたオレを「遅い!」と簡潔に叱った。
そしてオレの右手からアップルジュースが入った方の小さなガラスコップをひったくり、飲みながらまたベッドに腰かけ直す。
『山賊みたいな奴だ…』
山賊を見たことがないにも関わらず、なぜかオレはそう思いながら、またカーペットの上に胡座をかく。
腕を組みベッドに腰かけたままスカートの紡は、仏像の『半跏趺坐』のような姿勢で足を組んでいる。ただこいつ(紡)は弥勒菩薩像のような穏やかな顔はしていなかった。紡は憮然とした顔でオレの方を見ずに言った。
「あんたにわたしの胸を揉ませるために部屋に呼んだ訳じゃないのよ。『わたしがなんで消えるのか』の謎を解き明かすために呼んだの。あんたがしたことはホームズの家に来た相棒のワトソンが、突然ホームズの胸を鷲掴みにしたことに等しいのよ」
……その例えだとオレの方がホームズになるし、それにオレは『胸を鷲掴み』になんてしていない。
と、オレは思ったが、口には出さない。
はずみでとはいえ、幼なじみの胸に触れてしまったことを結構反省しているのだ。
「このことは後日問題にするとして『わたしがなんで消えるのか』の謎を早く解きなさいワトソン君!」
こんな無能なホームズ見たことない。
しかも、オレがこいつ(紡)の胸を触ったことは後できっちり問題にするつもりらしい。
「……いつからこうなってんの?つまり透明になり始めたのは」
親に言われたら嫌だな…と思いながらも、オレは目の前の無能なホームズに問いかける。
「今日!さっき、あんたの部屋に行く直前からよ」
つまり自分が透明になることを知った直後に、迷いなく自分の部屋からオレの部屋に屋根伝いで来たわけだ、こいつ(紡)は。
普通もっとこう『躊躇』というか。
……多分ないんだろうな、こいつ(紡)にはそんなもの。屋根伝いに人の部屋に来る女だもの。
…To Be Continued.⇒7
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