○≧≫13≪≦● 【日曜日の朝】
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翌朝。
朝の光がカーテンを貫き、オレの顔を照らす。
おかしなことが起こった翌日にも、普通に朝は訪れるものだ。少し夜ふかししてしまったオレは、まだ眠たい目をこする。
今日は日曜だ。
もう少し寝よう。
そう思ったオレが、またベッドで布団をかぶり直すと、
「……驚いたわ。まさか幼なじみのあんたに『あんな趣味』があったなんてね」
寝ているオレの顔の真横から紡の声が聞こえた。続けて耳の穴の中にフッ…と息を吹きかけられて、オレは思わず布団から跳ね起きる。
上半身だけを起こしてベッドの端を見ると、床の上に横座りして両肘をオレのベッドにつけて体を預けた紡が、眠そうな目でオレの顔を見上げている。
「………なんでいる?」
息苦しくなるほどオレの心臓が激しく鼓動を打つ。
部屋の窓にもドアにもちゃんと鍵がかかっているハズだ。昨日オレの『趣味の時間』を誰にも悟らせないために、戸締まりを念入りに確認したのを覚えている。
しかも、セリフから察するにこいつ(紡)はオレの秘密をすでに知っている!
「……なんでいる!」
もう一度同じセリフを、オレは繰り返した。
オレのベッドに肘をつけて頬杖をついていた紡は、眠そうな顔にニンマリと笑顔を浮かべる。
すごく面白そうなオモチャを見つけた子供のような笑顔だった。
「……一体いつからわたしが『この部屋にいない』と錯覚していた?」
「なん…だと……?」
オレと紡は、二人に共通する聖典の名ゼリフを応酬し合った。オレ側には『趣味を幼なじみに知られた…』という危機感と恥ずかしさもある。オレの全身を脂汗が伝い、緊張のあまり手のひらが痒くなってきた。
「……当然、『わたしの秘密』をバラしたら『君の秘密』もバラされる。その点はいいかな?ワトソン君…」
ニヤニヤ笑いながら紡はオレに言った。
こんなゲスなホームズ見たことない。
自分の秘密を守らせるために、逆に相棒の弱みを握ろうとするホームズなんて…
「なんか変なことになっちゃったな〜って人知れず悩んでたんだけど、こういう『使い道』があったとはね〜。これから楽しくなりそうだわ……。
これからもよろしくねワトソン君!」
オレに向かってそう言った後でニンマリ笑った紡は、『両手のキツネさんをチュー』させて忽然と姿を消した。
カチッガラガラ…っという音がして鍵をかけていたはずの部屋の窓が空き、ピシャッ…という音とともに窓が自動で閉まる。
紡がオレの部屋から出ていったらしい。
……紡はいま、透明なまま窓を開けて出ていった。
つまり、何らかの方法で『キツネさんのチュー』を継続したまま窓の鍵を開けたか、もしくは『キツネさんのチューを一旦解除しても透明状態を継続できる』方法を、紡は自分で編み出したらしかった。
オレは無言で紡が出ていった窓の鍵をかけ直す。そして大きく息を吸う。
どうやら、こいつ(紡)は、紡が一番手に入れちゃいけない力を手に入れてしまったようだ。
「うああ゛ァーぁぁぁぁ…ぁぁ…ァァ゛ッ………!!」
決して人に知られたくない『秘密』を紡に知られてしまったオレは、部屋の中で獣のような咆哮を上げる。
「うるさいよ、健太郎!」
一階から母親の声が聞こえた。
オレは枕に顔を埋めたまま、ベッドの上で体をねじり、しばらく身悶えを続けた。
…To Be Continued.⇒14
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