○≧≫1≪≦● 【序ノ章:フルトヴェングラーの旋律】
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アニメイトバディ1
【アニメイトバディ1】
アニメイトさんの『ブックフェア2023』の
企画『相棒とつむぐ物語』のために書き下ろした短編の一つです。
宜しければご意見・ご感想等、よろしくお願いします。
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「事件よ健太郎!」
紡がいつものように、隣の家から屋根伝いに二階のオレの部屋に入ってきた。
この女のこの奇矯な行動は、ほぼ毎日のことだ。オレは慌てず落ち着いて、勉強机に座りながら聞いていた音楽プレーヤーの停止ボタンを押した。
「……落ち着け紡。事件など平和なこの街にはそうそう起こらん」
頭からヘッドホンを外しながら、オレは紡にさめた視線を送った。このヘッドホンは紡からもらった去年の誕生日プレゼントである。
……せっかくフルトヴェングラーの旋律に酔いしれていたところだというのに、紡ときたら。
第二次世界大戦中に活躍したドイツの指揮者のCDを聴く高校2年生のオレは深く嘆息を漏らした。
このオレ岸宮健太郎と隣の家に住む吉脇紡の二人は、いわゆる男女の『幼なじみ』である。しかし、『タッチ』や『H2』のような甘くほろ苦い関係ではなく、一方的に紡がオレのことを『搾取』する関係が出会ってから高2の春の現在まで11年間続いていた。
痛いことや苦しいことや悲しいことやトラウマになりそうなことを微妙に避け、たまに『オレがほんとに欲しい誕生日プレゼント』なども贈ってこまめにオレの機嫌を取りながら、オレが怒り始めるかどうかのラインギリギリを『ジョー・モンタナのタッチダウンパス』のように正確に狙って、紡はオレの日常を侵略してくるのだった。
……その情熱を別のことに使えば一角の人物になれるだろうに。オレはこの奇矯な幼なじみに対してそう思わざるを得ない。
「事件はあんたが知らないだけでいつも起こってるのよ健太郎!いいから来なさい!」
紡はオレの半袖シャツの袖を引いて、隣家にある自分の部屋まで屋根伝いに戻ろうとする。紡は小さく細い体で頑張って20センチ高く15キロ重いオレの体を引き摺ろうとして「ふんぬぬぬ…」とかいいながら引っ張っている。オレがその場から動かないので、紡はオレの太ももに自分の足の裏をつけたままでオレの袖を引っ張り、自分なりの『テコの力』を利用しようとしている。それ意味あるか?
「……やめろ服が伸びる。あとオレは屋根伝いに隣家に侵入するような趣味はない。玄関から行ってやるからおまえの部屋で待ってろ」
服の袖からやんわりと紡の両腕を離したオレは、そう言いながら部屋の壁にかけてある白いヤッケに袖を通した。
「……お茶くらいは用意しろよ」
屋根伝いに隣家の自分の部屋に戻る紡のスカートのおしりにそう声をかけたあと、オレは自分の部屋のドアから出て一階へ降りていった。
…To Be Continued.⇒2
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読んでいただきまして、
ありがとうございます。
次回に続きます。
※小説の文体のルールが一部分からず、
読みにくい点が多々あります。
申し訳ありませんが、ルールが分かるまで、
このままの形で掲載させていただきます。