6◆顔合わせを終えて~オディールの手ごたえ
「あれは、婚活のやり方を間違っているとは思わないか?」
屋敷に戻ったオディールがミアーラへ言った第一声である。
「熊のようにのっそりとしておりましたわね、お話も難しいことばかり話してらしたし…」
ミアーラが今日の茶会を思い返すが、印象はこれで全てだ。熊の実物は見たことないが、絵本などで見たことがある。あれと似ている。
「辺境伯のあの恰好について周りの者は何も言わないのか?婚活が上手くいかないようにわざとやっているのか?大柄なのに縮こまって顔も見せずにいたら縁談だって来ないだろう」
「頑張った限界があの姿ではないのですの?」
「なるほど。アルゴンドラ領にその方面の人材がいないと。ならばこの結婚は私が適材かもしれん」
「まあお姉様!アルゴンドラ辺境伯をお気に召されましたの?」
「人柄についてはまだわからん。しかし私にできることはあるように思う」
これから獣でも討ち取りにいくのかという恰好で婚活の場に現れた彼に、皆内心ツッコミが追い付かないだろう。いや、アルゴンドラ辺境伯は王家の血筋の尊いお方、追い付いた所でツッコミなんて入れられないのだが。
名家と縁を作りたい貴族が娘を差し出しても良さそうなものだが、それには魔物と隣り合う北の辺境がネックなのだろう。
もし魔物の大量発生なんかでアルゴンドラ領に甚大な被害があれば、王家の血筋だからこそ忠誠を問われ、妻の実家が何もしないわけにはいかない。そしてその「もしも」があった際の支援は人的にも金銭的にもあまりに大きい。アルゴンドラ辺境伯にプラスαの要素、例えば、縁を作っておけば甘い利権が吸えるとか、王宮での待遇が上がるなんてことがあれば話は別だが、現に縁談が来ていないのだから、そんなこともないのだろう。
しかし、危険な地域をそれこそ命懸けで守っているお偉いさんだというのに、あまりに不遇ではないだろうかとオディールは思う。花嫁くらい好みの女性を選びたいだろう。別にこんな可愛げのない規格外じゃなくてもいいはずだ。
「まずは素材を確認してからだが…男性の装いはさすがにやったことはないが、これは腕がなる」
勉強はしてきたので出来なことはないはずだ。オディールは今まで頭に詰め込んできた、数々の男性用の装いを巡らせる。そんな時彼女は不敵に笑っているのだった。