4◆初顔合わせin王妃の茶会
王妃の茶会にはロッテンバッハ一家総出でやってきた。
「いいかオディール、余計な口は利くな。微笑んで「YES」と「NO」しか答えてはならんぞ」
馬車で何度もロッテンバッハ伯爵からそう言われ、オディールは貼り付けた笑顔で茶会会場である庭園まで歩く。
「まあまあ、ロッテンバッハ伯爵!こんなに美しいお嬢さんを隠していらしたのね!」
王妃が初めて見るオディールに歓喜の声を上げる。王妃が紹介した花嫁として申し分のない娘である…見た目だけは。
「はあ、その…オディールは内気なものでして…あまり華やかな場所を好まず…。この度はよいご縁をいただいたと存じます」
いつものオディールなら「苦しいな父上」とつっこむところだが、「YES」と「NO」しか言えないので黙っている。
「アルゴンドラ辺境伯は王が連れて参りますわ…あら、来たようですわね」
王妃が視線をやった先には王と、王より頭一つ大きな男が並んでいる。高さもだが、幅も広い。
その姿を確認した母と妹は口を開け茫然とし、王妃様は笑顔のままどこか遠くを見ている。父に至っては顔を背ける始末だ。
王と一緒にやってきたアルゴンドラ辺境伯は前髪をうっそうと顔に垂らし、毛皮を何かに仕立てるわけでもなく肩から羽織っている。その姿は一言で言うと「山男」だ。
「あら…あらあら…それは何と言いますか…毛皮が暑そうねぇ」
王妃は苦し紛れにそう言うが、さすが笑顔を崩さない。
「いやぁ、遅くなったな。紹介しよう。こちらが我が国の国防の要、アルゴンドラ領を守っているローレンス・アルゴンドラ辺境伯だ」
「ご紹介に預かりました。ローレンス・アルゴンドラです」
オディールは唖然としている家族の後ろからツイと前に出て、昨日妹と練習をした淑女の挨拶の形を取る。
「オディール・ロッテンバッハでございます」
「オディール!王妃様がご紹介をする前に発言をしてはならん!」
勝手に動いたオディールにロッテンバッハ伯爵は青ざめて言う。頼むから自ら動こうとしないでくれ。
そんなロッテンバッハ家のやり取りに、言葉を失い固まっていた王妃がはっとする。
「まあまあ、良いですのよ!夫婦となる二人なのだから、ねえ!」
結婚相手の顔合わせの場で、どうして山男が現れるのか。理解が追い付かないでいた王妃はフリーズしていたのだが、どうにか動き始める。
「さあさあ、お茶にいたしましょうか。あ、だけどその前にお庭をご覧になって。レイチェル、お客様をご案内して差し上げて」
「はあい」
レイチェルは第二王女で、まだ学園に通う前のあどけなさが残る姫である。やはり緊張感を取るには子供と動物だと思い、王妃はレイチェルにペットの小型犬を連れて参加するようにと言っていたのだ。
ロッテンバッハ一家と、アルゴンドラ辺境伯とお付きの者ご一行は、可愛らしい姫に庭を案内されることになった。