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3◆オディールの特技

アルゴンドラ辺境伯との初顔合わせは王妃様が主催の茶会となった。城での茶会なので最上級の装いが求められる。


「あなたも来るのかミアーラ。魔獣のような人は嫌なんじゃないのか?」

「何を仰るのお姉様、魔獣のような人に嫁ぐのは無理ですけど、魔獣のような人は見てみたいじゃない」


オディールに髪を結われながら元気になったミアーラは答える。

そんなミアーラとて自分の代わりに姉がアルゴンドラ辺境伯へ嫁ぐと聞いた時には、驚きと共に申し訳なさでいっぱいであった。


「お姉様は修道院へ行くのが夢でしたのに…!」

「いや、それは違う。修道院に行かせると言ったのは父上であって、別に私の夢というわけではないぞ」


オディールは修道女となって神に仕えたいと思うほど信心深くもない。ただ貴族令嬢としてやらなくてはならないあれやこれやに比べたら、修道院でやることの方がまだ適性があるんじゃないかと思っただけだ。


「それにアルゴンドラ辺境伯は縁談が来なくて、こんな罰ゲームみたいな形で相手を見つけるしかないようなお方だ。多少私が貴族令嬢とかけ離れていたとしても目を瞑ってもらう。まあだから、ミアーラは心配するな」


オディールのその言葉にミアーラは元気を取り戻し、今は姉妹で仲良く茶会へ向かう身支度をしているところなのである。


「さすがお姉様の髪結いは素晴らしいですわ」

「そうだろう。貴族相手に商売ができると自負している」


オディールは髪結いの出来栄えに満足そうにふんぞり返る。ミアーラの明るいはちみつ色の金髪を編み込んでからわざとアシンメトリーになるようにアップで結い、髪色に合わせた花のコサージュを留める。ピンクから白にグラデーションする色合いのコサージュは、オディールがミアーラの誕生日に贈ったものだ。

ミアーラの幼い顔立ちもオディールにかかれば可憐な淑女になる。そうしてドレスを準備したメイドにバトンタッチをした。


「さすがにドレスは縫えんからな」

「これ以上私たちの仕事を奪わないでくださいませ」


メイドが二人掛かりで明るいピンク色のドレスに着替えさせる。少し幼い色合いだが、こんな色が着られるのもそろそろ終わりだろうからと選んだ。ミアーラのお気に入りのドレスだ。

自分の支度に入ったオディールは、鏡に映った顔をじっと見る。

婚約者との初顔合わせなのだから、結婚相手として好印象を持たれた方がいい。

そうなるといつものようなキツめのアイラインは無しにして、無難なアイシャドウをするのがいいだろう。かと言ってブラウンでは地味。


「やはりピンクか…」


自分にあまり似合う色ではないので挑戦である。ピンクをいかに自分の顔に似合うように乗せつつ、今回のテーマに沿った装いを私というキャラクターに乗せるか。

化粧台の上に大量に並んだ化粧品たちを手に取り色合いを確認する。オディールの視線は職人さながらである。

淡いパール感がある白いアイシャドウと、赤みがかったピンクを選んでずらりと並ぶ刷毛から1本を選びアイメイクを始めた。


「オディール様のメイクはいつも惚れ惚れしますわ」


ミアーラを着替えさせながらその様子を見ていたメイドがうっとりと言う。

オディールは淑女教育から解放されて出来た時間を、化粧と髪結いのテクニックを培うのに費やした。修道院に入れば化粧などすること無いのだから、それまで気が済むまで極めればいいと始めたことだ。

しかしどうもオディールは自分が美しく着飾る方向ではなく、妹や母親、親戚からメイドまで使ってその技術を伸ばし、それを人に施すのに喜びを見出すようになったのだ。

母親がどうしても負けたくないという相手がいるパーティーの日には、パーティーの意図と主催者の好みをヒアリングし「勝てる」装いに仕立て上げ、メイドが初デートに行くという時には、自然かつ可憐なメイクを施して本人の手持ちから最適なコーディネートをした。


オディール自身のメイクは「淑女らしさ」は気にする必要はないと、基本的なテーマは「魔女」である。アイラインをきっちり入れた「目力アップスタイル」だ。時々別のテーマで化粧をしたりもするのだが、「漆黒の覇王」がテーマの時はさすがに父親から待ったが入った。しかし基本的にロッテンバッハ伯爵は女性が装うのは大いに結構と言い、その趣味をやめさせることはなかった。


「こんなものか…」


柔らかい印象にするため眉はふんわりとしたカーブで描き、赤み掛かったピンク色を乗せた瞼はパールで光を出す。アイラインはペンシルでは引かず、濃いめブラウンのアイシャドウをつり目の印象を打ち消すように描く。そしてアルゴンドラ辺境伯は後継ぎが欲しいと言っていたそうなので、頬には血色が良く見えるバラ色を乗せた。


「どうだ、たくさん産めそうに見えるか」

「オディール様なんて言い方です!大変お美しいです!」

「お姉様、魔女よりずっと素敵!いつもそうなさったらいいのに!」


髪はサイドだけ編み込んで結い上げ、あとは自然に任せる。あまり加工しない方が「産めそう」に見えるのではという判断だ。ブロンズ色の髪の毛はクールな印象を与えるが、メイクと服を暖色でキメるので髪飾りはパールでいいだろう。


「完璧ですオディール様!」

「お姉様素敵!お友達に自慢したい!!」


完成したオディールの姿にメイドも妹も大はしゃぎである。美しくありながら親しみと感じさせ、どことなく保護欲を掻き立てられる完璧な婚活スタイルである。

いつもの恰好もそれなりに気合を入れているのに、こうも反応が違うとはと、オディールは満足げに口の端を上げる。


こうまで人の印象を変えるのだ。装いとは「武器」だ---そう深く確信をした。

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