24◆ごめんなさいのお茶会
オディールに化粧をされた三姉妹はいつもとは違う美しさである。
闇夜を照らす月のように静かな神々しさのディアナ、まだ誰も踏み込まぬ雪原の清らかさのスノー、賑やかな色合いの花畑のようなフローラ。
三姉妹の変身ぶりに夫人は何故か大笑いをする。
「なによお母様、笑ってないで褒めてくださらない?」
「なんでツボってるのよお母様」
「ダメよお姉様たち、放っておいてお茶を始めましょう」
スノーがオディールにお詫びのお茶会を開くことにしたのだ。庭園の真ん中にテーブルを用意させたので、これからみんなで移動するのである。
姉妹たちに続こうとしたオディールの腕を掴み、夫人はさっと柱の陰に連れ込んだ。先ほどとは打って変わった真剣な顔だ。
「ごめんなさいね、本当に。侯爵には私から説明して、ローレンス様にもお詫びするわ」
「いらん。言う必要もない。私は何も損じていない」
きっぱりと断言するオディールを夫人はじっと見つめている。
スノーが放った感情的な言葉など、オディールを少しも傷つけないのだ。それはきっと、彼女には確固たる自分があるからだ。
「あなたならアルゴンドラ領主の妻としてしっかりと支えることができますわね」
「さあな、それはわからんよ」
にい、と口の端だけ笑ってみせてオディールは娘たちの後を追う。
少し離れてそれを見ていたマリアは、どうしてあの人はいちいちやることがかっこいいのかと笑っていた。
「オディール様もめいっぱいおしゃれされたらいいのに」
「そうですわ!ローレンス様を驚かせてさしあげましょうよ」
どういうわけか婚約者がオディールだとバレており、話題は自然とその話になる。
「いや、今の私のテーマは「ひっそりと目立たず」だ。テーマを変更するつもりはない」
「なぜですの?」
「わかったー!あんまりお綺麗にすると男性から言い寄られて、ローレンス様がやきもちを焼くんですわね!」
無邪気なフローラの言葉にオディールは驚きである。侍女として後ろに控えているマリアも一瞬変な声が出た。
「すごいな、無い発想だった」
オディールは自分が美しく装ったところで、万が一誰かに言い寄られても、口を開けば去っていくだろうと思っている。ローレンスが焼きもちというのも、オディールにとってはあり得ない話だ。
「ヒッヒッヒッ、楽しそうだな娘たちよ…」
「お帰りなさいませお父様」
いつもとは何だか雰囲気の違う娘たちにサイモン侯爵は驚いたが、夫人が「あとで」と耳打ちし、この場では何も問わずにいることにした。
後ろから続くローレンスは姉妹たちを一目見て破顔する。
「オディール嬢の仕事だな」
ローレンスの笑顔に姉妹たちは舞い上がる。ワイルドなイケメンの笑顔は決まった相手が居ようがなんだろうが滋養に良いのである。
そんな様子を見ていたオディールはマリアにこっそり耳打ちする。
「あのアルゴンドラ辺境伯が美女にニヤニヤしているぞ」
「違います」
今あなたの仕事と言ってたではないかと激しくつっこみたいマリアである。
ローレンスとサイモン侯爵の椅子も用意され、賑やかな茶会となった。その日の天候は一日中崩れず、日が傾くまで楽しむことができた。
オディールはサイモン侯爵の前なのでYES・NOモードに切り替えようとしたのだが、やかましい娘たちがあれやこれやと聞いてくるのでそれもできず、いつもの貴族令嬢らしからぬ彼女のまま話していた。婚約者であることもバレているので、オディールは「もう知らん」の心境だ。
サイモン家の娘たちと楽しそうに話すオディールに、ローレンスは目を細める。いつの間にか婚約者であることも伝わっていたので懸念事項もなくなった。ここでもやはり、自分が言ってしまったことには気付かないローレンスなのである。




