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23◆キャメラ・リンドン風はいただけない

オディールはスノーを自分が借りている客室へ連れて行き、鏡台の前に座らせた。


「マリア、まず化粧を落とす」

「はい、畏まりました」


一体何が行われるのかと、遅れてやってきた姉妹とサイモン夫人は傍らで見守る。マリアがトランクを開けると、中を見た姉妹は「わあ!」と感嘆の声を上げた。王都で揃えた数々の化粧品たちが詰まった夢のトランクだ。


「キャメラ・リンドン風はとても流行っているが、自分のカラーや顔の作りを無視してキャメラ・リンドンにするのはいただけない」


涙でぐちゃぐちゃになった化粧を落とされ、あどけない素顔を見せたスノーにオディールは言う。驚きのあまりスノーの涙はすっかり止まっていた。


「あなたは雪のように白い肌だ。そして顔はリンドンを真似るにはまだ幼さが残る。持ち味を最大に生かしていこうじゃないか」


毒を知って大人になるのはゆっくりとやればいい。雪原の中に今生まれたみたいなピュアさ、今はそれを最大に生かす。オディールはスノーの肌むらを少しだけ整え、瞼にひやりと涼し気な薄いブルーを乗せる。アイシャドウは作りこまず、長いまつげを丹念に仕上げている。


「…目が大きくなってる」


化粧の様子を見ていたディアナがボソリと言う。


「こんなピンクは肌が白くないとなかなか使えない」


彩度の高いピンク色を頬に乗せ、一度刷毛でさっと払う。色味を見て、もう一度繰り返す。

スノーは鏡に映る自分の顔を不思議な気持ちで見ていた。お化粧なんていつもしているし、綺麗にだってしてもらえている。だけど今映っている顔は人前でお行儀のいい自分ではない。甘えん坊で我儘で、そんな甘さが全面に出ているのに…


「スノーお姉様、すごく可愛いわ!」


フローラがキラキラした目でスノーを見る。


「髪も流行りのアップスタイルではなく、粉雪がまばゆく光っているように輝く巻き毛を見せびらかそう。口紅は…これに真っ赤だとギャップが男性に受けそうだが、まあ今はそういうのは無しだ」


血色を補う程度に、唇の元色に似た紅を選ぶ。つやが出るタイプだ。


「そのお化粧には紫のドレスよりも、刺繡が素晴らしい空色のドレスがいいわね!」


夫人はメイドにスノーの部屋からドレスを持ってくるように指示をした。オディールはメイドにバトンタッチし、マリアと目を合わせて笑う。

そうして着替えを終えて登場したスノーは、侯爵令嬢のよそ行きではなく、彼女らしい美しさが引き立っていた。


「キャメラ・リンドンを張り付けずとも、あなたはこんなに美しい。何があったのかは知らないが、誰かと比較する必要などない」


オディールの言葉にスノーはハッと自分のやったことを思い出す。


「あの…ごめんなさい、わ、私とても酷い言葉を…」


涙が浮かんだスノーをオディールはギラリと睨みつけた。


「泣くな、化粧が崩れる。美しさは根性だ」

「は、はい!?」


オディールは腕を組んでスノーを上から下から横から後ろから確認し、満足そうに「よし」と言った。後ろに控えていたマリアはすました笑顔で耳打ちする。


「オディール様、いつもの口調に戻ってらっしゃいますわよ」

「…あ」


お嬢さんの涙を見て、つい色々吹っ飛んでしまった。さすがのオディールも冷や汗を掻きながら、サイモン家の女性たちの方へ振り向く。


「オディール様、よろしければ私にもお化粧をしてもらえませんか?」

「あの!私!オディールお姉様とお呼びしてもいいかしら!?」


照れてお願いをするディアナと、興奮冷めやらぬフローラは、オディールの口調のことなど気にしてはいない。


「…いいのかな」

「よろしいんじゃないでしょうか」


マリアが良いというのならまあいいか、とオディールはついでに姉妹全員に化粧を施すことにした。

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― 新着の感想 ―
[一言] 美しさは根性だ!が言い得て妙…。とくに若いうちはそうですね(笑)。
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