20◆オディールによるローレンスの婚活再チャレンジ計画
「見た目を整えれば縁談など向こうからどんどんやってくる。その中からアルゴンドラ辺境伯はお好きな女性を選べばいいわけだ」
「なぜ、せっかく婚約が決まったというのに他の女性を選ぶ必要がございますのでしょうか?」
サイモン家の立派な客室でオディールとマリアはお茶をしている所だ。さすがは侯爵家だけあって茶器も茶葉も素晴らしい。同じ「貴族」と言われているが、ランクによる経済状況はあからさまである。
侍女として付いて来ているマリアは、役割を考えて同じ席でのお茶は辞退をしたのだが「だからそういうのは苦手だと言っているんだ、遠慮は無用だいいから座れ」とオディールに着席させられた。
それならばマリアはこの際いい機会だと、オディールが婚約についてどう思っているのか聞き出そうと口火を切ったのだ。
「考えてみろ。国防のために最前線で戦っておられる方が、妙な噂と妙な恰好のせいで縁談の一つも来ない。挙句の果てに王からの罰として娘を嫁入りさせろと言われた父からこんな規格外が宛がわれたんだ。気の毒そのものだ」
「結果的に良いご縁に恵まれたのでしたら結構ではないでしょうか」
妙な噂は気の毒でしかないが、妙な恰好は本人のせいだとマリアは思う。
「良い縁かどうかは本人が判断したらいい」
「その通りでございますわ」
「なので、アルゴンドラ辺境伯の身なりを整え、その状態でどこぞのでかいパーティーに参加させる。そこでよりどりみどりの中から選んでいただこうと思っているのだ」
「ですから、どうしてそうなるのですか!」
マリアは上位貴族の令嬢に対してたいそう失礼な振る舞いをしている自覚はある。しかしオディールがこれでいいと言うのなら遠慮はしない。
「そりゃあそうだろう。あちらも私には気を使ってはくれているが、婚約者として特段気に入っている様子はない」
「え?」
「いや、これについては想定内だ。しかしこのような面白い縁もあったことだし、良縁探しに一肌脱ごうと思ったわけだ」
「アルゴンドラ辺境伯は…オディール様を大変に気に入ってらっしゃると思いますよ…?」
「あの方は後継ぎが欲しくて婚活していた。とりあえず産めそうなら文句はないのだろう」
そう言ってオディールは高々に笑う。子供が欲しいというのは婚活の立派な理由だ。由緒正しい貴族の家なら血を残す義務もある。とりあえずは婚約者同士とはなったが、婚活の再挑戦ができたらもっと良縁が結べると思う。婚約解消するのも、両者納得の上であれば問題はないはずだ。
「サイモン家の令嬢に受けが良くて何よりだ。新しい服が出来上がっていればもっと効果があったのに残念だな」
「余計なお世話かと思います」
自分の心の内を話したのだからマリアは納得するものだと思っていたのだが。
誰が聞いても良いアイデアだと信じていたので、オディールはマリアの反応が予想外である。できればローレンスの婚活再チャレンジ計画も手伝ってほしいと考えていたのが、これでは期待できなさそうだ。
しかしそれはそれとして、自分の意見を真っ直ぐに伝えてくれるマリアを、オディールは好ましく思っていた。
「あなた、引かないな」
「遠慮は無用だと仰いましたから」
参ったな、とマリアに言いながらもオディールはどこか嬉しげだった。




