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14◆傷の消えた顔

「よし、バッチリだ」


オディールはできた肌色のファンデーションを傷跡の上に乗せ、軽く叩くようにしながら広げていく。


「まあ!傷がすっかり無くなりましたわ!」

「仕上げはこれからだ」


透明なパウダーを顔全体に馴染ませると、よりいっそ自然になった。まるで初めから傷など無かったようだ。


「失礼する」


そう言うとオディールはローレンスの眉毛を整えカットし、長い前髪はヘアワックスでオールバックに固める。男性用のヘアワックスは嫁入り道具として買い足したものだ。


「おでこの形がいいのだから見せていこう」


そうして出来上がったローレンスの顔に、ラインハルトもマリアも、そしてローレンス自身も驚きだ。


「…昔の顔だ」

「何を仰います、昔よりも男前になられてますよ!」


傷が化粧で隠されたこともあるが、肌色を補正し、眉毛の形を整えただけなのにこんなにあか抜けるものなのか。髪をオールバックにしたのは初めてのことである。


(こんなに素敵になったのなら、上級貴族のお嬢様方は悔しがりそうね)


マリアはローレンスがどう言われているかを知っている。冷酷無比も、変わり者も、「イケメン」という最強のカードがあれば大抵の貴族女子には問題が無いのだ。王族の血筋なんて家の縁談はマリアの家ではまず声も掛からないので、気持ちとしては高みの見物である。

三人が出来上がった顔で盛り上がっている間、オディールは今日のローレンスの服を見繕う。しかし面白いことにシャツもパンツも同じ型ばかりだ。


「服はこれだけか」

「そうだ」

「そうか、まあ旅先だからな」

「いや…領に戻っても同じものばかりだが…式典用の正装はある」


ローレンスは以前デザインしてもらったシャツとズボンを、毎回買い替えるタイミングで同じものを作ってもらっている。


「よし、わかった。この街は織物が盛んだという。良い布を見繕って私がアルゴンドラ辺境伯へプレゼントしよう」

「なんだと!?」

「そういきり立つことはない。騙されたと思って袖を通してみろ」

「オディール嬢、ローレンス様はいきり立ってはおりません!ただ驚いただけなのです!」


どうしてローレンスの反応はいちいちそう素っ頓狂なのかとラインハルトは必死にフォローを入れる。言われたオディールは何も気にしていないのだが。


(そうよねぇ、驚くわよねぇ、いきなり服をプレゼントされちゃうんだもん)


マリアはもう、面白くて仕方がない。

素敵なジェントルマンに素敵に変身させられる女の子の小説、前に読んだわ…服、もらってたわ…「これを私に!?」とか言っちゃうの…ヤバい超面白い…


「オディール様へ提案です。バークマン領は織物が盛んですが、最近は加工品にも力を入れており、服飾職人も腕のいい者がおります。ですので、こちらで採寸し注文をされたらいかがでしょうか。完成したら私が責任を持ってお届けしますわ」

「マリア、いいのか?」

「はい、ぜひ私にもその服を着た姿を拝見させていただければ」

「約束しよう」


オディールはマリアに向かって不敵に笑う。どうしていちいちかっこいいのか。

ローレンスは10年ぶりになる傷のない顔を鏡でマジマジと見る。

なんと私の花嫁は魔法使いであったのだな。なんて素晴らしい縁談がやってきたのだろう。


「ありがとうオディール嬢。正直、前髪は邪魔だった」

「そうだろう。あとは服を着替えてみろ、パーティーでは入れ食い状態だ」

「…?魚を釣るパーティーがあるのか?」


どうしてそこで前髪の話なのか。もっと他に言うことはないのか。

入れ食いは違う、そういうことじゃない。

耐えきれなくなったマリアは声を出して笑い、ラインハルトは深いため息を吐いた。

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