写真【短編ホラー】
「俺怖いの嫌いだって」
「けど、せっかくここまで来たんだし、行ってみない?」
こういう時の彼女は譲らない。渋々、俺は彼女のナビに従い、目的地へ向かうことに。
「で、どんな場所だって?」
「海で溺れた人が漂着する場所。地元民も不気味がって近づかなくて、そこには数えきれない数の地蔵が鎮座しているんだって」
「やっぱ俺行きたくないんだけど」
海沿いを走り、山道を少し走ると、開けた砂浜に出る。普通の海水浴場のようだが、俺たちが昼間に泳いでいたところとは違い、人が少ない。まぁ、もう陽が落ち始めてるしな。
「穴場らしいよ、ここ」
「初めからここに来てたらよかったじゃん」
「でも、ご飯とかどうすんの?」
他愛もない話をしていると。
「あ、ここ」
彼女の言うように空き地に車を停め、砂浜に出る。そのまま海を横目に進むと。
「ここって……」
砂浜の先に、突如として切り立った崖が現れ、そこには暗い洞窟があった。
「洞窟じゃん」
「そう。ここはトンネルになってて、ここを抜けるとその場所に着くらしいよ」
洞窟とはいっても、ランプは着いてるし、看板もある。『この先、足元注意』だそうだ。
「じゃ、いこっか」
どこから取り出したのか、懐中電灯を手に、彼女は俺の手を引いてぐんぐん中に進んでいく。
「あ、ちょ、マジで行くのかよ」
有無を言わさず、彼女は進んでいく。中は思っていた以上に薄暗く、夏だというのに寒いくらいだ。壁には何やらひっかき傷のようなものがあり、少し怖くなる。3分ほど歩くと。
「わぁ……」
「うわぁ……」
全く違う反応を見せる俺と彼女。トンネルを抜けた先にあったのは、海を望む岩場。岩場と言っても高所にあるわけではなく、普通に足を付けて遊びたくなるくらいの岩場で、特に深くなっているわけでもない。そう、一見ただの岩場だ。その海を見張るかのような大量の地蔵さえなければ。
「やっぱり、こんなにあると怖いね」
「帰ろうぜ」
トンネルを抜けて、右手には海。左手には地蔵の群れ。その先は行き止まり。開けた場所のはずなのに、閉塞感を感じる。
「待って、写真だけ撮らせて」
「ええ、嫌だよ」
彼女はスマホを取り出し、自撮りモードにして、俺の傍に立つ。
「ほら」
「はぁ……」
地蔵をバックに、1枚。その後、彼女は地蔵や景色を写真に収め……
「満足した。帰ろうか」
ようやく帰路に着くのだった。
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彼女を家に送り、自宅に帰った俺は一息ついてから寝ようと思い、現在進行形で彼女が送ってきている写真を眺めていた。海で遊んでいる写真。ドライブ中の写真。そして、あの場所の写真。
「やめてくれよ、こんな時間に」
一枚一枚見るたびに地蔵がこちらを見てくるような気になってくる。そして、気づいてしまった。
「あれ?」
地蔵はすべて同じわけではない。赤い布を巻き付けてあるのもあれば、帽子を被っているもの。欠けているものもあれば倒れているものもある。だから、わかったのだ。
「この地蔵……なんで全部に映ってるんだ」
俺と彼女が自撮りした写真。そこに映っているのは、頭部が半分掛けた地蔵。欠けた部分には緑の苔が生えており、まるで脳みそが見えているかのようにも見える。その地蔵が、他の写真すべてにも映っているのだ。トンネルの中から岩場を撮った写真の奥に。海側から地蔵全体撮った写真の真ん中に。トンネルのみを写した写真の右端に。どうしても地蔵が移りこむのだから、一見おかしくないようにも見える。でも……
「位置関係がおかしいだろ……」
こんな見た目の地蔵は一つしかない。地蔵全体を映した写真でも同じ色のものはない。つまり、この地蔵は……彼女の撮影に映りこんできていたことになる。
「……やめよやめよ」
本当に怖くなってきた。写真をすべて消去し、寝ようとした時。ピロン、という音ともに、彼女からメッセージが届く。
「ん……?」
内容は、1枚の写真が添付しているだけだ。まだ送り忘れたのがあったのか? 写真を開くと。
「……う……うわああああああ!?」
思わず、スマホを投げ出す。送られてきていたのは、彼女の自室の写真。そこには……彼女がベッドで眠っている姿。そして、そのそばには、あの緑の地蔵。
「だ、誰がこんな写真を」
このままではまずい気がする。急いで彼女の元に行かないと。そう思い、玄関の扉を開けた瞬間。
「あ」
頭部が半分掛けた、緑の地蔵が、あった。
完