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「あなたは私にとって憧れです。でも住む世界が違います」


「あなたの最終成績だけど、全弾命中させたことで大きく加点されたわ。最終評価は最高点。あなたには明日の修了式で訓練合格者の代表を務めてもらうよ」


 無我夢中でこなしてきたこの2週間。自分が与えられた評価には狐につままれたような感覚だった。


「私がですか?」


 呆然としている私にルストさんが私の肩を叩いた。


「自信を持って! あなたの努力の結果よ」


 私はそんな大それたことをしたとは思っていない。それに私はそんなすごい人間じゃない。

 称賛されたことを私はかえって引け目に感じてしまった。そしてどうしても聞きたかったあの言葉をルストさんに投げかけたのだ。


「ルストさん」

「なに?」

「ひとつお聞きしてよろしいですか?」

「いいわよ」


 私の言葉に落ち着いた表情のまま真剣に耳を傾けてくる。私は息を飲んで勤めてゆっくりと質問の言葉を吐いた。


「ルストさん。〝天才〟って呼ばれるのってどんな気持ちですか?」


 彼女はすぐには答えてくれなかった。無意識のうちに再び言葉が出てくる。


「ルストさんが〝精術の天才〟と言われているといろんなところから聞きます。実際、軍大学を飛び級で卒業したとか、ドーンフラウ大学で特別待遇だったとか、ものすごい話をいろいろ聞きます」


 そして私は彼女に対して抱いていた引け目を口にしてしまう。


「私は凡人です。何の取り柄もありません。士官学校を目指して試験の突破も出来ませんでした。一般兵卒の募集に紛れて女性兵士になりましたが、腕力のあるわけではない、剣技が優れているわけではない、ましてや、精術も使えない〝適性欠損〟、大集団の中で遅れないようにするのが精一杯」


 そして私は弱音を吐いた。


「あなたは私にとって憧れです。でも住む世界が違います」


 それは暴言だった。頬を叩かれても仕方がないだろう。少しの沈黙の後に彼女は語り始める。


「私ね、自分が天才と呼ばれることについては何とも思っていないの」


 顔を上げればそこには落ち着いた穏やかな表情の彼女がいた。


「精術の天才、軍学校の神童、昔から色々言われた。でも私にはそんな言葉何の価値もない」


 彼女はベッドサイドで私のそばに座りなおすと私の手を握りながら言葉を続ける。


「私、精術の天才なんて言われているけど、精術使いとしては致命的な欠陥があるのよ」

「欠陥? ルストさんが?」

「ええ」


 到底信じられなかった。彼女にまつわる戦場での伝説の数々。国境侵犯の最大級の危機だった西方国境地帯ワルアイユ動乱事件、南方山岳地域カルト集団討伐、彼女が打ち立てた実績を細かいものまで数え上げれば両手でも足りない。

 私は思わず叫んでいた。


「ルストさんのどこに欠陥があるって言うんですか?」


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