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6/11

――あの人ならどうするだろう? あの、旋風のルストなら?――

 そして、選抜訓練最後。

 最も過酷な試験が私たちを待っていた。


【連続狙撃訓練】


 訓練場近くの岩山の中に入り、小高い山腹に潜んで離れた場所にある的になる岩にひたすら弾丸を命中させ続けるというものだ。試験概要が明かされたとき誰もが絶句していた。

 弾は200発、これを何発命中させる中で優劣を競うことになる。1人1人の所要時間が長いので3箇所に分散しての試験になる。

 その3箇所を一度に見える場所に仮設本部が設けられて、そこで待機することになった。

 くじ引きで順番が決められて私は一番最後の8組目になる。


 隊員が所定の場所についていよいよ開始となる。


「撃ち方始め!」


 ルドルス教官の声が響く。いよいよ過酷を極める200発狙撃の始まりだ。


 そこから先は壮絶と言う他にない。

 単純に200発連続で打てばいいというものではない。命中させ続けるために恐ろしく集中力を使う。 

 まさに心と魂を削るようなものだ。

 200発全部を撃ち終えられれば良い方で、100発程度で断念する人が続出した。中には尿意を我慢できずに現場から離れると言う情けない人もいる始末だ。


 中には尿意の問題を想定して水を飲まずに訓練に望んだ人もいたが、こちらは逆に途中でスタミナ切れになった。集中力が切れて100発を超えたあたりで1発も当てられなくなるのだ。

 ほとんどの人が精も根も尽き果てて最後の訓練を終える中でいよいよ私の番だ。


「次! クレスコ・グランディーネ!」

「はっ!」


 25人の最期、私は一人で射撃現場に到着する。

 射撃姿勢はその者の自由でいいと言う。長丁場ということを考えれば伏せた姿勢の伏射が妥当だろう。

 仮設本部から声がする。


「準備はいいか?!」

「お願いします!」

「撃ち方始め!」


 私の試験が始まった。


 初めのうちは順調だった。7発単位で弾倉に弾をセットして。それを連続で撃つ。ひたすらこれの繰り返しだ。

 射撃の際に重要なのは呼吸のリズムだと教官が教えてくれた。連日の訓練の中でそのコツは私の体の中に十分すぎるほど染みこんでいる。

 リズミカルに一定間隔で淡々と狙いを定めて引き金を引き続ける。意識を途切れさせないこと、集中を切らさないこと、それが一番重要だということは初めからわかっていた。

 いつしか私の意識は完全に目標へと集中し、周囲の音も余計な光景も、気にならなくなっていく。


 そして順調に100発目が過ぎた時だ。

 私は引き金を引く指を離した。


「まずい」


 集中力が切れた。それまで自分自身の銃と目標だけを認識していたのがふいに視界が広がって周囲全部が見えるようになってしまう。


「慌てるな」


 ゆっくりと深呼吸をし呼吸と心拍を整える。銃から離した右手で、引き金を引くイメージで動かして気持ちを整える。

 その時再び頭をよぎったのは憧れのあの人――


――あの人ならどうするだろう? あの、旋風のルストなら?――


 うろたえるだろうか? 焦るだろうか?

 いや、きっと鮮やかに集中力を取り戻すに違いない。

 あの人は天才だ。私のような凡人には考えもつかないような優れた才覚で切り抜けるに違いない。

 何もない私だから、努力を積み重ねるしかない。


「あの人に会うんだ」


 そしてずっと抱えていたあの疑問を尋ねるために。


「よし」


 そして再び息をひそめて引き金を引く。

 私はより深く意識を狙撃へと集中させる。

 引き金を引く、撃鉄が落ちて雷管を叩く。


――カチッ! タァアン!――

――カチッ! タァアン!――

――カチッ! タァアン!――


 これを繰り返し7発を撃ち終えて回転式弾倉を左にスイングアウトさせる。


――チャッ――――


 回転式弾倉の前側に付いているプッシュロッドを押して空薬莢を排出すると、即座に7発詰める。そして回転弾倉を収納して再び構える。

 照星と照門を合わせて狙いを定める。

 この時、周囲の風、気温、天候、様々な要因を考慮して弾丸の軌道を頭でイメージして目標を狙う。

 初めは誰もがその理屈を理解できていなかったが、一番最初にそれを飲み込んだのは意外にも私だった。

 そうだ、銃を撃つ、その技術に私は見合っていたのだ。


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