表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

4/11

「終われません。ここで終われません!」

 最初に私たちを待っていたのは【持久力訓練】、いかに長時間過酷な状況に耐えられるか? それだけが求められていた。

 重い荷物を背負い、軍用地図に示された進路を見つけ出しながらひたすら歩き続ける。単純であるがゆえに精神力の強さも求められる。

 こうなると腕っ節の強さや筋肉の量は何の意味もない。初めの段階で女性であることを馬鹿にしていた連中が次々と脱落していった。


 次が【銃器分解訓練】

 与えられた小銃を一度分解しそれを元に戻す。これを何度も繰り返す。分解手順が示されたのは最初の1回だけ。2回目以降は何も教えてくれない。

 銃を元に戻せなくなれば脱落となるし、何より同じ作業を延々と反復させられるので精神がゴリゴリ削られる。何より手先の器用さが求められる。不器用さを腕力で誤魔化せていた人間はこの段階でボロが出た。

 しかし、気が遠くなる回数、分解訓練を繰り返したことで、見ていなくてもあらゆる操作がこなせるようになっていた。


 その次がやっと【射撃訓練】

 本当にキツイのはここからだ。

 1回に21発の弾を与えられ、様々な姿勢での射撃訓練が繰り返される。21発のうち3分の1以上を的から外すと罰則となる。訓練場のサーキットコースを10周走らされるのだが、大の男が次々に音をあげた。


 ルドルス教官は鉄拳制裁するようなことはないが、弱音を吐くものには鋭い質問を投げかけていた。この言葉がまたキツい。


「お前はなぜここにいる」

「お前はどういう理由でここへ来た?」

「なぜここに来なければならなかったか、思い出せ!」


 私も何度もその問いかけをぶつけられた。その度に自分の居場所を見つけたいと言う思いが込み上がってくる。

 そして頭をよぎるのはあの人――〝旋風のルスト〟――憧れのあの人の面影。

 あの人に会って聞きたいことがあるのだから。

 教官の声が飛ぶ。


「会うんじゃないのか? あの人に」


 そうだ私には会いたい人がいる。


「終われません。ここで終われません!」


 這い上がって立ち上がる時、教官は私の肩を力強く叩いてくれた。振り落とされそうになりながらも何度も這い上がってくる私を彼はしっかりと見てくれていた。


「よし行け! 訓練はまだ終わってないぞ」

「はい!」


 掛け値なしに差別もえこひいきもしないこの人を私は心から信頼するようになっていた。

 そして、最初の一週間、訓練の前半が終わる頃には集まった人数は半分にまで減っていた。想像以上の過酷なハードルに体力よりも気力が持たない人間がいたのだ。

 初めは女性であることで冷やかされていたが脱落せずにここまで残ったことで私を馬鹿にする人は一人もいなくなった。

 5人部屋の一つを女性ということで1人で使っていた私だったが、ドアがノックされて声がかけられる。


「クレスコ、お前もどうだ?」


 訓練場近くの宿舎、前半が終わった夜に残った者たちで酒盛りが行われた。それに声をかけてくれたのだ。


「はい、喜んで」


 過酷な訓練を乗り越えた仲間同士で飲む酒は思いのほか楽しかった。

 私は生まれて初めて同じ目線で語れる仲間というものを見つけた。

 もっとも、ここまで残った25名からさらに20名に絞られる。ここから厳しさはさらに増していくのだ。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ