第23話 豊穣の不死蝶
第23話 豊穣の不死蝶
ここは青の世界樹の森。
果樹園の脇に体長20mの不死蝶が横たわり、青く光る翅は少しずつ鈍くなり始めている。
果樹の木は生気を失い、数枚の残った葉っぱに金の鱗粉がキラキラと光ってる。
エルフの冒険者が無造作さに果樹の木に登り、最後に残った世界樹の実をとっている。
突然、世界樹の前に魔力の黒い渦が現れ、冒険者達は唖然と見ている
渦から2つの板が出てきた、最初の板には緑の服を着たエルフが一人、もう1つの板にはエルフの子供と人族二人が板から降りて来る。
エルフの子供は、大型の蝶に駆け寄り薬を飲ませようとしている、人族の2人は子供を庇うように立ち、冒険者を睨んでいる。
緑色の服を着たエルフが怒気を込めた声で
「お前たち、ここで何をしている。世界樹のお守り役はどこにいる。巫女はどうした」
冒険者は、剣を抜き魔法の呪文を唱えはじ・・
サトルは、魔力を感知して、土魔法で胸から下を土で拘束する。
冒険者に近づき
「お前たちは何者だ、答えろ」
誰何された冒険者は怒気を含んだ声に震えながら
「お・れ・たちは、王宮の依頼で実を取りに来た、許し・て・・・」
サトルは尚も詰め寄る
「なぜ、世界樹の森で魔法を撃った、森では殺生は禁止と知っているだろう」
「あの蝶が鱗粉を撒いたからだ」
サトルは、さらに怒気を強め
「話にならん、精霊様が悪意ある魔物を世界樹の森に入る事を許すと思うのか」
「許してくれ、頼む」
ドラゴンの咆哮が世界樹の結界を通して響いてくる。
念話通信がサトル、ナビ、アップルに届く
『サトル、不死蝶をやったのは、そのエルフか、殺す』
『銀龍、落ち着け、お前は世界樹の結界を壊すつもりか』
銀龍は、再び怒りの咆哮を放つ。
その時、コトリの声が精霊を通して
(銀ちゃん、ダメ、静かにして)
銀龍は思わず(はい)と返事をする。その瞬間にコトリと銀龍の間に念話のパス設定される。
『銀ちゃん、不死蝶の声が聞こえないから静かにしてね。お兄ちゃんの話を聞いてね』
銀龍は素直に『はい』と答える。
サトルは、冒険者に向き直り
「お守り役はどこにいる」
「お守り役も巫女様もここには居ないです」
「なぜ、森に入れた」
「精霊様のお守りを貸し与えられている」
サトルは、冒険者の首にお守りを見つけ引き千切る。
「ナビ、このお守りは、俺のじゃないが、どう思う」
「オーナー、前のお使い様のお守りです」
冒険者を睨み
「お前、このお守りどこで手に入れた」
「王宮からの渡されました、世界樹の実とお守りを渡して依頼料をもらいます」
「王宮の誰の依頼だ?」
「わかりません、冒険者ギルドを通して依頼です」
残り3人の冒険者からお守りと世界樹の実を回収する。
サトルは、冒険者達を土魔法でアップルに乗せる。
「アップル、このゴミ4人を結界の外に捨てて、忘却魔法もかける事」
「了解」
「お兄ちゃん、お兄ちゃん」とコトリが呼ぶ声がする。
サトルは、不死蝶の触角を持つコトリの横に座る。
『不死蝶、間に合わなくて、すまん』
『いいえ、間に合いました。コトリちゃん両手を出して』
『うん、蝶のお姉ちゃん』
コトリの両手の上に約15cmの卵が現れた。
『コトリちゃん、この子を頼みます、あなたのそばに居れば卵は孵ります。
生まれた子と仲良くしてね』
『うん、分かったの、仲良くしてお友達になるの』
『サトルさん、この子を守ってください』
『はい、必ず』
不死蝶の青かった体が鉛色になり、触角が垂れ下がる。
コトリは、卵を大事に持ち、涙が溢れ出す。
・
漸くコトリが泣き止み、サトルは、世界樹の布をコトリに襷掛けにしてその中に卵入れる。
「コトリちゃん、蝶のお姉さんを埋めようね」
「うん」
「世界樹の精霊様にここに埋めてもいいか聞いて」
「うん、分かったの」
コトリは、世界樹の前に行き片膝をついてお願いする。
世界樹の葉が1枚コトリの手にのる。
「お兄ちゃん、精霊様が良いて」
サトルは、土魔法でゆっくりと不死蝶を土の中に埋める。
荒れ果てた果樹園と世界樹の木の周りを見て、サトルは
「コトリちゃん、荒れたここをお掃除しようね」
「うん、お姉ちゃん達も手伝って」
・
掃除が終わり、世界樹の落ち葉と枝を材料に不死蝶のモニメントを作り、不死蝶を埋めた場所におく。
「コトリちゃん、精霊様に祈りを捧げよう」
「うん」
サトル達4人は、片膝をつく。サトルは柏手を2回鳴らし
サトルが「緑の世界樹の精霊様の使いと」
コトリが「緑の世界樹の精霊様の巫女が」
「「祈りを捧げます」」
青の世界樹が青く輝きその輝きは不死蝶のモニメントに届きモニメントは美しい青色になる。
そして、精霊の声がサトルとコトリに届く。
・
サトルがテーブルと椅子を出し、ホットドッグとスープで遅い昼食を食べ、
4人は桜が冷たくした紅茶とケーキを楽しんでいる。
桜が言い出すタイミングがなかった事を聞く
「コトリちゃん、不死蝶はなぜこの森にいたんですか?」
「うんとね、蝶のお姉ちゃんが果樹の木が枯れかけたの見て、精霊様にお願いして入れてもらったの。
それでね、金の鱗粉を撒いて木が元気になるようにしたの。
でもね、冒険者に攻撃されて、翅が黒くなり始めたから、蝶のお姉ちゃんは死ね事にしたの」
コトリは、また、泣き始める。
桜は、コトリを抱きしめて
「コトリちゃん、ごめんね、辛いことを聞いて」
コトリは、涙声で
「いいの、蝶のお姉ちゃんの事をみんなに知ってもらいたいから」
桜がサトルに向き直り
「お使い様、これからどうするですか」
「本当に悪い人を見つけて懲らしめる」
「お使い様、どうやって見つけるんですか」
「今の状況を整理すると
1。王宮、冒険者ギルドに黒幕がいる。
2。お守り役はこの件に関わっているのか、所在は?
3。精霊様から、精霊の巫女を助けてと俺たちは依頼された。
誰が巫女か、所在は?
何をするにも情報を集めてないと動けない。
そこで、ハイエルフ国の調査している、三日月達の出番だ。
桜、向日葵は三日月と合流してこれらの件を調べて欲しい。
頼めるか?」
「もちろん」「はい」
「世界樹の森を荒らし、罪もない不死蝶を殺めた者を許しません」
「優先順位は巫女だ、巫女は病気だそうだ」
「見つけたらどうします」
「状況がわからないが、最悪、誘拐してでも助ける」
・
サトルは、活動資金等を桜に渡す。
「お使い様、金貨50枚の頂いてもいいですか?」
「ああ、風呂付きの宿に泊まって今日の疲れを癒してくれ」
「アップル、護衛と俺との連絡係、頼むぞ」
「お使い様、了解しました。桜さん達の事は任せてください」
「アップル迄、同行してもらいありがとうございます」
「アップルは、隠密スキルもあるから調査に役立つぞ、遠慮なく使ってくれ」
コトリが寂しそうに
「桜お姉ちゃん、向日葵お姉ちゃん頑張ってね、コトリ帰りを待っているね」
「「はい、頑張ってきます」」
アップルがいたずら心で言う
「ふわふわさん、チョビとさん、さあ乗って」
桜が怒って「アップル、ふわふわ禁止です」とアップルの頭をパシと叩く。
向日葵が「チョビとでありません、ふわぐらいあります」パシと叩く。
「痛いな、姉さん達、頭を叩くと馬鹿になるでしょう」
「叩いた手の方が痛いわ、この鉄頭」
「えへへ」
コトリが。 サトルは、笑いを堪えている。
「プルちゃん、メーです」
桜達はアップルに乗りハイエルフの首都に飛んで行く。
コトリが大きく手を振る。
「コトリちゃん、ナビ、俺達は、マーサさん所に帰ろう」
『サトル、俺の事を忘れていないか?』
(やべ、銀龍の事を忘れていた)
『大丈夫だよ忘れる訳ないよ、えーなんだな、えーとお前の出番はちゃんと用意するから今日は、巣に帰れ』
『お前、口籠った、忘れていたな!』
『銀ちゃん、暴れないでお家に帰ってね』
『はい』
(銀龍はステータスを見て気がついた、名前が銀ちゃん、称号がコトリのお友達。 あの時に返事をしたから従魔契約が成立していた)
アップル達は、結界の外に出てすぐ、あの冒険者がフォレストウルフの集団に襲われているのを目にする。
「桜姉さん、あのバカ達をどうする?」
「このまま見過ごすのも目覚めが悪いから、魔物を追い払って」
「了解」
アップルは、姿を隠して石弾をフォレストウルフの尻に打ち込み追い払う。
冒険者達は、助かったと走って逃げて行った。
「桜、冒険者があの程度の魔物に怖気付いてるとは変ですね」
「向日葵、お使い様が女王蟻を倒した後で戦意を昂らせたまま威圧していたでしょう。心が折れて、戦う気力を無くしたんですよ」
「アップル、三日月様達を探しながら王都に行って」
「了解、桜姉さん」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ここは、ハイエルフ国謁見の間
時間は少し戻る
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
カリスタ国王が中央に立ち、右隣に宰相、左隣に長老達
リーゼ第1王女、アリス第3王女が帰国の挨拶をする為に謁見の間に来た。
リーゼとアリスは、カリスタ国王に見事なカーテシーを見せ敬意を表す。
リーゼが
「カリスタ国王、帰国の挨拶と報告に参りました」
「わが娘、リーゼ、アリス、堅苦し事はなしだ。よくぞ無事に帰ってきた。嬉しいぞ。そしてアリス使者として矢面に立たせて苦労をかけた」
「いいえ、お父様。私が失言しても第3王女であれば、言葉を切り捨てることが出来ます。お父様の意図は理解しています」
リーゼが目を伏せ
「お父様。謝罪しなければなりません。お使い様を見つける事も名前、姿を知る事もできませんでした。申し訳ありません」
「リーゼよ、お使い様の所在は、判明した。ドワーフ国に現れた」
「それでは、私達は、ドワーフ国に行きます」
「リーゼよ聞け、11日前、数百のキラーアントンがドワーフ国を襲った。
そこにお使い様と従者と思われる者と共に現れて瞬く間に殲滅した」
「父上、それでは、問題が無いのでは」
「続きがある、1月以上前に巨大なキラーアントンを坑道奥で見たと言う証言があり、ドワーフ国王とお使い様は、ランク外の女王蟻がいると確信して対応を検討していると報告が上がっている。
リーゼよ、今はドワーフに行くことは出来ん。
念を押す、隠れて行く事もまかりならん。良いな」
「はい、お父様」
「アリスよ、エリスの事で焦るなよ。きっと精霊様が助けてくれる」
護衛が誰何する
「何奴、出て来い」
ドワイト宰相が
「何事か?」
「会談中申し訳ありません。魔力を感知しました。ですが、今は何も」
「よい、気にするな、お前の職務を果たしただけだ、フォレストバードでも横切ったかもしれん」
「はぁ、ありがたきお言葉、感謝します」
「リーゼ、アリス、エリスを見舞ってくれ、いない間寂しい思いしていたからな」
巨大な魔力を全員が感知して、窓の外を見る。
遠く世界樹の上で銀色の龍が旋回している。
カリスタ国王達は、バルコニー出て異様な姿を見る。
アリスは、思わず言葉が出る
「あれは銀龍、なぜこんな所に」
カリスタ国王はアリスの言葉に
「アリス何か知っているのか」
「はい、クローバー王国に行く途中で見かけ、帰りの船の船員の話しでは、お使い様がクローバー王国に現れた銀龍を撃退。何日後、船を襲っていたホワイトグラージと格闘し、グラージを倒したとの事です」
「ホワイトグラージを倒すとは銀龍はランク外か。
ドワイト、銀龍が去った後、世界樹の森の調査を頼む」
「はい、承知致しました」
王宮の人々に目は、長い間銀龍に注がれる。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
王宮に朝から潜入していた、三日月は、キラーアントンとお使い様の話を聞いた時、胸が高鳴り魔力隠蔽が一瞬途切れた。
三日月は、魔力感知に引っかかった時は肝を冷やした。もう少しエリス王女の情報を集めたいが、お使い様の言葉を思い出した三日月は、視線が銀龍に向いている隙に魔導キックボードで脱出する。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
銀龍の騒動が終わった後、護衛達は念の為、謁見の間を捜索したが何も出なかった。