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「聞いたか?あのカラスの話」
「本当なのか?……ブロウズが、カラスを従えてるって話」
「ルドヴィコが真っ青になって走り回ってたぞ。あのルドヴィコがだぞ?」
「信じられんが、あいつが嘘を言い触らす様には見えん。大体、あれだけの愛煙家が“煙草どころじゃねぇ”と言いきったんだ。ただ事じゃねぇさ」
「クルーガーさんには“恐れる事は無い”って聞いてたんだが………いよいよもって、恐ろしい事になってきたな」
「でも、ブロウズがカラスを扱うのは任務だけだって話だったじゃねぇか。不気味な、目ン玉くり貫かれたカラスを呼び出すって話だろ?」
「そりゃあそうだけどよ、いきなりカラスが肩に止まったんだぜ?有り得ねぇだろ、そんなの。何か黒魔術だのでカラスを呼び出すだけでもとんでもねぇのに、森中のカラスを従えていたらどうする?その内俺達、ブロウズの話をするだけでカラスに耳を引っ張られる様になるぜ」
「たかだかカラスが肩に留まっただけだろ?そんなに恐ろしい事か?」
「馬鹿かお前は、恐ろしいに決まってるだろ。お前、森を歩いてて肩にカラスがいきなり留まった事があるか?ねぇだろ?野生のカラスなんてな、普通は餌投げてもそうそう寄って来たりしねぇんだよ。それどころか、腐った餌を投げた奴を皆で覚えてる様な、タチが悪い程に警戒心が強い鳥なんだよ」
「じゃあブロウズが好かれてるとかじゃねぇか?」
「野生のカラスにいきなり好かれる訳無いだろ、飼育してようやく懐く様な鳥だぞ。野生のカラスがいきなり肩に留まるなんてそれこそ、悪魔の使いでも無いと有り得ないんだよ。いい加減、俺達もブロウズを警戒するべきかもな」
「そりゃあ幾ら何でもあんまりだろ、ブロウズが何をした訳でも無いんだからよ。クルーガーさんも言ってた通り、俺達ぐらいしか味方が居ねぇんだろ?俺達まで警戒したらあんまりじゃねぇか。色々噂はあるが、俺は味方してやった方が良いと思うぞ」
「頭を齧られるまでそうやってるつもりか?言っておくが、タカを信じてタカに喰われた奴は皆に“どうしようもない愚か者だ”と笑われたんだぞ。喰われるまでは“彼こそ自然の代弁者だ”と持て囃されていたにも関わらず、だ」
「いや、だがよ………」
「兎に角、俺は生き残る方を選ぶ。お前がカラスの群れに挽き肉みたいにされても、助けは期待するなよ、俺まで挽き肉にされたらたまったもんじゃないからな」
「待てよ、分かった。分かったよ。俺もブロウズを警戒する事にする。だが、まずはもう一度ルドヴィコを呼んでこい。しっかり話を聞いてからにしよう」




