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梟が居た。
梟は空から、夢の中から、霧の中から様々な人達を眺めていた。
大陸の中で人々が争い、血にまみれた首が飛ぶのを眺めていた。
梟はある兵士に語りかけた。兵士は戸惑ったが、梟は兵士に印を授けた。
梟は言った。
「好きに使え」
兵士は、印の力で何百という骸を生み出した。
兵士は骸の山を踏み分け、戦場で英雄となったが毎晩訪れる骸の夢に魂を病み、身を投げた。
屋根の下に入る為に靴磨きをする奴隷が居た。
梟は奴隷に語りかけた。奴隷は戸惑ったが梟は印を授けた。
梟は言った。
「好きに使え」
奴隷は印の力で金を集め、商会を裏から糸で引き、貴族にまでのしあがった。反旗をへし折り、王の傍にまで歩み寄った。
だが、奴隷は汚泥を見すぎたせいで世界に絶望し、部屋に籠って独りで死んだ。
気弱な没落貴族が居た。
梟は貴族に語りかけた。貴族は戸惑ったが梟は印を授けた。
梟は言った。
「好きに使え」
貴族は印の力で気に食わない者を全て八つ裂きにし、金の椅子に座ったが、自らを責め周りに怯え、最後には歪んだ魂と共に叫びながら印で自らを八つ裂きにした。
歪んだ英雄が居た。
梟は英雄に語りかけた。英雄は戸惑ったが、梟は印を授けた。
梟は言った。
「好きに使え」
英雄は印の力で手下を纏め、また印の力で王に逆らう者を引き裂いていった。王の影で、英雄は王の敵を引き裂いて、時折、手の中で金貨の袋を弾ませた。
英雄は影に潜み王を支えたが、次第に英雄は人が獣にしか見えなくなり、金にしか従わなくなっていった。
何もかも失った男がいた。
梟は男に語りかけた。男は戸惑ったが、梟は印を授けた。
梟は言った。
「好きに使え」




