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『タラスは?』
『昨日から全く見てない、多分タラスは……もう、無理だと思う』
『畜生、タラスは上手くやれてたのに。あのクソ宗教の改宗課程でさえ何とか乗り越えたのに、今更やられちまったってのかよ』
『タラスが何で看守に目を付けられたのか、心当たりがある。多分、だけど』
『どうした?』
『最近、自分と居る時に看守が話してたのを聞いちゃったから…………タラスの故郷の、ニリラを更地にして重装刑務所を建てたって話をしていたのよ』
『ニリラが!?色抜きのクソどもが、あの場所は先祖代々伝わってきた歴史ある土地だってのに、そんな土地が刑務所にされるなんて………国の歴史を何だと思ってる、ザルファ教の礼拝堂だってあったんだぞ!!』
『………あいつら、もうペラセロトツカを“未開発の空き地”ぐらいに思ってるんだろうね。どんどん刑務所や廃棄処理場を建ててるって聞いたわ』
『レガリスではもう、強制収容所は閉鎖で戦時中に比べて数を減らしてるんだろ?なら何で、何でペラセロトツカで刑務所を建てたりするんだ、あいつら何から何まで訳が分からねぇよ』
『きっと、自分の国の土地は刑務所や廃棄場以外に使いたいんだろうね。単純に、レガリスからペラセロトツカに“見映えの良くない施設”を移転してるのかも』
『色抜きどもが、他人の国でもう我が物顔かよ。俺達の国に歴史が無いとでも思ってるのか?』
『無いと思ってるわよ。もしくは、無かった事にしたいか。だからこそ、帝国が考えた歴史を改宗施設で刷り込んでるのよ。知ってる?グヤーシュの話』
『グヤーシュ?グヤーシュがどうかしたのか?』
『………えっと、一応言うけど絶対にそっちより私の方が怒ってるからね。そこは忘れないでよ』
『何だよ?』
『……グヤーシュって名前は間違いで、これからはキロレン風シチューって名前に置き換えられるらしいよ。ここだけじゃなく、いずれレガリス全土でね』
『キロレン風、シチュー?キロレンって西方国のキロレンか?何だよ、キロレン風って』
『説明してるのが聞こえてきたんだけどさ。グヤーシュは…………ペラセロトツカの移民が、キロレンのシチューを真似しようとしたのが始まりだから、元を正せばキロレンの料理だってさ』
『何だよ、それ』
『他にも色々と聞いたよ。途上国の料理文化とか、ペラセロトツカの料理文化は元々キロレンやニーデクラの料理を真似ようとした事から始まったとか』
『……ふざけやがって……………』
『他にも文学の、ズビシェク・プルフが書いた“変貌”とか“城壁”とかも、元々はニーデクラの作家が書いたのを改変した事にされてる。元々はニーデクラの血筋だったなんて話もあるわ』
『ズビシェクは、ペラセロトツカでも有数の小説家だろ!?それを、それを外国出身にしようってのか!?』
『奴等、本気よ。ペラセロトツカの文化の全てを、レガリスやキロレン、ニーデクラが起源だと広めるつもりで居る。言ったでしょ、此方の方が怒ってるって』
『クソが………ふざけやがってあいつら、ふざけやがってあいつら!!』
「随分と楽しそうだな、お前ら」
「…………いえ、何も」
「随分と変わったマグダラ語を話す様だな?まるで禁止されてる汚染言語みたいだったが。汚い音が出ない様に、口を洗った方が良いんじゃないか?」
「いえ、あの、問題ありません」
「マグダラ語が通じないのか?俺は、洗うべきだと言ったんだぞ。それを、お前らは俺を否定してまで洗うべきじゃない、なんて言ってるんだぞ。随分と立派な口を利くじゃねぇか」
「いえ……………」
「お前らは何度か洗った筈だが、もしかしたら口以外に問題があるのかもな?もう少し“消毒”した方が良いんじゃないか、汚い音が二度と出ない様によ」
「いえ、あの、いえ……………」
「おい此方に来てくれ、こいつらを取り押さえるぞ。こいつらの身体を消毒した方が良いみたいだ」
「来たぞ。何だこいつらか、確か先週騒いだタラスの知り合いじゃなかったか?」
「あぁ、二度とこいつらから汚染言語が出ない様に“洗う”必要がある。懲罰室の鍵を持ってこい」
「それと、煮えた油を用意してくれ。こいつらは石鹸程度じゃダメだ」




