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「この木箱は此方で良いのか?」
「そっちでいい、いや待て、それはドリーの所に持っていってくれ」
「おう、分かった」
「頼んだぞ。ちゃんと組み合わせ順に置いてくれ」
「組み合わせ順?」
「ドリーに聞けば分かる。頼んだ」
「あいよ」
「お疲れ様、ヴィンス。ねぇ、あの木箱って例のライフル?」
「あぁ、リアか。軍用のクランクライフルだ。官給品の横流しが入ってきてな、新品だぞ」
「あんたアレ本当に仕入れたのね、正直無理だと思ってたわ。高かったんじゃないの?」
「まぁ高くは付いたが、マシな方さ。ディロジウム金属薬包はその分、安く付けさせたしな」
「本格的な銃の訓練もさせないとね。クロスボウとは色々と訳が違うんだし。ローフェンの連中みたいな事になるのは、御免だからね」
「ローフェンか………何だったか、仲間内で暴発したんだっけか?自分の脚を撃って死んだんだったか、よく分からず暴発させた弾が仲間に当たって死んだんだったか」
「両方よ。しいて言うなら、管理不十分でディロジウム薬包の漏洩と揮発もやらかしたらしいわ」
「まぁ、あいつらは金目当てで自警団を名乗っているだけだからな。実際には何一つ革命を信じていないし、大義も持ち合わせていない」
「大丈夫なの?」
「別に大した連中じゃない。俺はローフェンを知ってるが、自警団を始めれば小銭を2倍に出来ると自慢してる様な小物だ。本人は喧嘩も大して出来ないしな」
「そうじゃないわよ、ローフェンが小物だとしても自警団があんな今回の件に乗じて小銭を漁っている様な、下らない連中だと思われるかも知れないって話よ」
「あぁ、そういう事なら心配はいらない」
「どうしてよ?」
「革命に乗じて彷徨いてる様な小物ならまだしも、本当にこの革命を信じてる人々、この言葉に出来ない大義を説明されずとも分かってる人々は、俺達の様な自警団と小銭目当ての自警団もどきが別だと分かってるからさ。現にモーリスの所は、革命を信じてる人々を見下していた事が広まったらしく、どんどん警護や取引を頼まれなくなってきているしな」
「まぁモーリスやローフェンが小物って事に異論は無いわよ。でも…………あんまり悲観的な事を言うつもりは無いけど民衆が全員、私達の事を分かってくれる訳じゃないわよ。本当に皆、最後まで革命を信じてくれるかしら」
「革命を迎えるのに相応しい連中なら、必ず信じてくれるさ」
「まぁ、あんたがそう言うなら私はついていくだけだけどさ。……いよいよね」
「あぁ………いよいよだな。レガリス、何ならバラクシア全体のバランスが変わる瞬間が、近付いてる」
「こうして見ると、嘘みたいな話ね。何年も前に叩き潰された筈の革命が、また息を吹き返したかと思えばとうとう街全体に革命の火の粉を散らしてるなんて。私もこうして大義の為に戦えるなんて、夢にも思わなかったわ」
「……人々の自由の為に、大義の為に、命を捧げた人々の犠牲は、決して無駄じゃなかった。人々の自由は、血の犠牲を払う価値のあるものだった」
「“我に自由を、さもなくば死を”か。まるで浄化戦争の頃みたいな空気だわ」
「分かっているとは思うが、お前も備えておけよ」
「直に、街中が燃え上がるぞ」




