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「結局どうなんだ?所長の様子は」
「火貸せよ。所長の様子って?」
「ほら。とぼけんなよ、どう考えても最近の所長はまともじゃねぇだろ。部屋にあんなの幾つも飾って骨調べてばっかりなんて、明らかにまともじゃねぇよ」
「知ってるよ、万が一お前が別の事聞いてたら面倒だから、一応カマかけただけだ。それで、何が聞きてぇんだよ。所長の様子なんて見ての通りとしか言えねぇだろ」
「見ての通りが問題だから言ってるんだよ。どう考えてもまともじゃねぇ、日がな1日光に照らしたり炙ったり冷やしたり、近付けたり離したり、ひたすら骨の事しか考えてねぇじゃねぇか。あの変な彫刻………タリスマンか?何がそんなに気になるんだ?」
「最初は怖いもの見たさ程度や度胸自慢かと思ってたんだがな、ありゃ違う。眼で分かる、ありゃ本当に夢中になってる眼だ」
「どうすんだよ、職場の総責任者がイカれた紋様の骨のタリスマンに夢中です、なんて帝国本部に言い訳出来ねぇぞ」
「学者連中まで引き連れてやがるからな。確か、この為に学者まで雇ってるんだろ?似た様な物の製造までさせてるらしいぜ、クソの役にも立たない代物の為にもな」
「“金は充分に貰ってるから文句ありません”なんて言うつもりは無いぞ、給料が良かろうがイカれた奴の下で働くなんて俺は御免だ」
「ちょっと前は、気軽にクズや亜人を殴れて良い仕事とか言ってたお前が、随分と人格者になったじゃねぇか」
「そりゃ亜人どもや亜人のケツ舐める連中にブン殴って靴磨かせるのは悪くない仕事だけどよ、それとこれとは話が別だろうがよ」
「相変わらずだな。だからって俺達に何が出来る?結局、こうやって喚いても俺達に出来る事は精一杯、所長のイカれた趣味を知らなかったフリをするぐらいだ。お前も受け答えぐらい練習しとけ」
「あぁクソ、監獄行きなんて勘弁だぞ。俺はクズどもを檻に入れる側であって、檻の内側で寝起きする趣味は無いってのに」
「最近は自分の血筋も忘れて思い上がった連中が増えてきたから労働力には困らねぇな、なんて言ってたらこのザマだ。イカれた人殺しにイカれた主張、その上イカれた主張まで持ってきやがって。奴隷民族や奴隷民族にすり寄る奴に、何でロクな奴が居ないのか骨身に染みるぜ、全く」
「笑い事じゃねぇよ、その内性病や疫病まで持ってくるんじゃねぇだろうなあいつら。あぁ冗談じゃねぇ、邪教崇拝やら幇助やらで修道会の童貞や生娘どもに取り押さえられて檻の中で日陰生活、なんてクソッタレにも程があるだろ」
「落ち着けよ、レガリスの修道会の連中に童貞や生娘がそうそう居る訳ねぇだろ」
「そこじゃねぇよ!あぁもう最悪だ、煮詰めたクソの詰まった便所より最悪だ。修道会の連中に収容所ごと蒸し焼きにされるか、この最高な仕事を捨てて逃げなきゃならないなんて、俺が何したってんだよ」
「修道会の連中が部屋に踏み込んだりしてみろ。俺達全員、この収容所ごと蒸し焼きにされるぜ」




