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「なぁ、これ本当に仕入れたのか?」
「何がだ?」
「ほら、これだよ。この納品記録の、この蜂蜜。本当に仕入れたのかよ?」
「過去の納品?…………あぁ、これか。このヒツギバチがどうのって奴か。そんな顔してるって事は、お前これがどんな蜂蜜なのか分かってるのか?」
「一応な。確かこれ、瘴気の中にしか棲んでないとかいう、稀少なハチだろ?これの蜂蜜となると、確か相当稀少だった筈だ。何でこんなもん仕入れてんだよ?」
「瘴気の中にしか、じゃなくて瘴気中と瘴気付近な。瘴気間際の大陸やらにも居るらしい、まぁ俺もそこまで詳しい訳じゃないけどな」
「あー、そうだっけ?」
「じゃなきゃ仕入れる度に瘴気層に入っていかなきゃならんだろ。まぁ、下層の際なら結局、“念の為”で対瘴気用の装備が必要になるんだろうけどな」
「まぁ、俺達用の潜瘴艇があるならまだしも人の潜瘴艇を使ってたら、費用がこんなもんじゃ済まないか」
「だろ?」
「ってそうじゃねぇよ、何でそのヒツギバチの蜜なんか仕入れてんだって話だよ。少し前に仕入れたフカクジラの骨も相当高値らしいけどよ、何で大金はたいてこんなもん仕入れるんだ?」
「知るかよ。そんなもん仕入れろって言い出したのは、あの“塔の魔女”なんだからよ」
「………最悪だな」
「最悪だよ。少なくとも、あの魔女が注文したんなら何がどう間違っても、俺達の得にはならないからな。どうせあの不気味な塔の中で、変なもんでも作ってんだろ」
「わざわざヒツギバチの蜂蜜なんか用意して何作るんだよ?クラッカーにでも掛けて食うのか?魔女ってのは、蜂蜜一つとっても不気味にしないとやってられねぇのか?」
「それか魔女の霊薬にでも入れてるのかもな。たまにはヒツギバチの蜂蜜入りの霊薬でも飲まないと、角が伸びすぎてバケモノになっちまうんだろ」
「笑えねぇよ。只でさえあの魔女は技術班の皆が忌み嫌う様な奴なのによ、これで“魔女の秘薬”でも飲んでたらいよいよじゃねぇか」
「それこそフカクジラの骨の粉末でも入れてるのかもな。案外、本当に霊薬を飲んでるのかも知れないぞ。自家製のやつを」
「やめてくれよ気味が悪い。しっかしフカクジラの骨だのヒツギバチの蜜だの、あの魔女は何でこんな曰く付きの物ばっか欲しがるんだ?いや、真面目によ」
「魔女サマの考える事は分からんさ。まー何か意味はあるんだろ、噂によればあの魔女が懐いてるグロングスは任務で、骨の剣を振り回す様になったらしいしな」
「何、骨の剣?普段の剣はどうしたんだよ?」
「知るかよ。聞いた話によるとわざわざ削り出した骨の剣を振り回して帝国兵を殺してるらしい、おぞましい話だよ」
「………なぁ、今更だけどよ、本当にあんなの飼ってて良いのか?そりゃ役に立つんだろうけどよ………」
「何があっても負ける訳には行かないんだよ。ここで負けたら、今までの人々が戦った意味が無くなっちまう。そもそもアレを飼って使おうって言い出したのは幹部達なんだから、俺達にはどうしようもねぇよ」
「でもよ、あのバケモノに懐いてる塔の魔女もそうだが、あんなのに頼って、帝国軍のクソどもに勝って、それで本当に革命は上手く行くのかよ?って言うか、上手く行ったって言えるのかよ?」
「さぁな。一つ言える事は、少なくとも勝たない事にはお話にもならないって事だ。“戦争に敗者は居ない、残るのは勝利と勝者だけだ”ってな。そもそも俺達は去年の春まで、あんなクズに頼らなきゃならないぐらい追い詰められてたって事、忘れるなよ」
「……分かってるよ、分かってる。暫くはあのバケモノには帝国軍と共食いさせておく方が良いって。でもよ………」
「何にせよ、グロングスはまだまだ使い道がある。だがあのバケモノは決して英雄じゃないし、何があっても許しちゃならない。革命後に、帝国軍みたいな連中が二度と現れない様にする為にもな」
「幹部達も、分かってる筈だ」




