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ヨミガラスとフカクジラ  作者: ジャバウォック
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 本当は親友の門出を祝ってやりたかった。




 素人目にも過酷な訓練、吐く物が無くなっても吐いている連中が所々で見掛けられる様な、とんでもない訓練並びに選抜試験に親友が志願する、と聞いた時は耳を疑ったものだ。


 確かに俺達の中ではロニーより強い奴は居なかったし、ロニーより身軽な奴も居ない。その上、ロニーは前々からレイヴンになる事を目指して鍛えてさえいた。


 だが、俺だってバカじゃない。


 “仲間内では一番強い”程度の奴が飛び込んでなれる程、レイヴン選抜試験が甘くない事は分かっていた。


 そもそも、あれだけの脱落者が出る過酷な訓練と試験に参加する連中は、皆“自分なら合格出来る”と思い込んだ連中が来ているのだから。


 自分なら合格する筈だと思い込んだ連中が大勢志願して、それでも脱落者は数多く居る。その事実を照らし合わせれば、ロニーがレイヴンになれる確率が決して高くない事は明白だった。


 だが、挑まない勝負に勝利は無い。


 何にせよレイヴンになれなくてもロニーがロニーである事には代わり無い、無理だったら無理だったで笑い合えば良いさ。


 そんな事を思いながら、緊張した面持ちのロニーを送り出した事を覚えている。


 そして実際に訓練が始まるとその噂はすぐに広まり、その事を知った連中、それもロニーとはそれほど仲良くない連中の間で賭けが始まった。


 ロニーがレイヴンを諦めるまでどれだけ掛かるか、という賭けだ。


 色んな奴が色んな額を賭けたが、結果から言うと全員が損をする羽目になった。


 その回のレイヴン選抜試験ではたった2人しか残らなかった合格者、黒羽の団から正式に認められたレイヴンとなったからだ。


 俺達のあのロニーがだ。


 あの、チーズケーキが大好きでお調子者のあのロニーがだ。


 それからは随分と上機嫌な日が続いた。


 奴は俺がバラしてしまったサプライズも知らないフリをしてくれたし、俺の親友で失礼な賭けをしていた連中の鼻を明かしてやったのも覚えている。


 勿論、レイヴンになってからもロニーとはそれなりに言い争いもしたし、呆れたりもした。


 一応言っておくと昔みたいに殴り合いの喧嘩をしていないのは、まず確実に負けるからだ。


 本当にレイヴンになった男に対して“ルール無し”の喧嘩を挑む程、俺は命知らずではない。


 加えて結果論にはなるが、奴があのレガリスから来た化け物ことデイヴィッド・ブロウズ、“グロングス”側に着いたのは正解だった。


 是非はともあれ、前回も今回も“勝った側”に着いたのは間違いない。


 ………まぁ正直に言って良いなら、今でもあの縁起の悪いグロングスに絡むのは止めて欲しいのだが。


 それはともかく、つい最近。


 ある日、食堂でロニーは随分と思い詰めた顔でサラダをフォークでつついていた。


 何を食べるでもなく、何をするでもなく。


 此方が何を話し掛けても上の空。


 他の連中は恋がどうの女がどうのとバカな噂をしていたが、俺にはすぐに分かった。


 遂に、任務が来たのだ。革命の為に、自身の命を捧げて人を殺すという任務が。


 お前もこれで革命の英雄になれるんだな。


 その時が来れば、俺はそんな言葉を掛けてやるつもりだったし、何ならスーパーチーズケーキの時みたいに祝ってやりたかった。


 だが、余りにも思い詰めた顔をしているロニーを見て、今更ながら実感する。


 ロニーは、これから人を殺すのだ。


 理屈では分かっていたつもりだった。革命の為に、腐った帝国の連中を殺すなど改めて確かめるまでも無い事だ。


 だが、実際に目の前で思い詰めるロニーを見て、俺は当たり前の事に気が付いた。


 レイヴンは、死なない訳では無い。殺されない保証も、無事に帰ってくる保証も何一つ無いのだ。


 初めての任務だろうと手慣れた任務だろうと、帝国の連中は変わらず全力で殺しに来る。


 それも、飢えたワシかサメみたいに血走った眼で。


 今回の任務に赴く為にカラマック島から離れたら、それがロニーとの今生の別れになるかも知れないのだ。


 目の前で、いよいよ下った任務に思い詰めているロニーを見ると他のレイヴンみたいな、人の首を斬り飛ばす様な歴戦の戦士達と同じ事が出来るとは、到底思えなかった。


 レイヴン選抜試験を合格しようとどれだけ鍛練を積もうと、ロニーは未だ俺の親友のロニーのままだ。


 これからレイヴンとして帝国のクソどもを相手にロニーが生き残る方法は、たった一つ。


 他のレイヴンみたいな、片手で敵の首を引き千切る様な、4人も5人も切り裂いては帝国兵達から恐れられる様な、怪物になるしかない。




 俺の親友は、怪物になれるだろうか?

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