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「道理でカラスが鳴いてると思ったよ」
「おう、お疲れ。どうかしたか?」
「どうもこうもねぇよ、胸騒ぎって言えば良いのか?バカみたいな数のカラスが集まってるのを見掛けたから、何とも嫌な予感がして来てみたらこのザマだ。何でまたグロングスが来てんだよ、クルーガーさんが呼んだのか?」
「いいや、何でも別件で来たんだと。クルーガーさんも人が良いもんだから、すぐにあのグロングスを誘い込んじまってな。いつもの仲良し空気だ。火ぃあるか?」
「お前それ昨日からだろうが、いい加減ディロジウム足すなり何とかしろ。ほら。…………全く、あの人だから俺達もそう騒がないでやってるけどよ。また変な面倒事持ち込まねぇだろうな?俺達ゃ確かに味方はするが、味方ってのは何も文句言わない訳じゃねぇっての」
「同感だな。むしろ味方こそ、助言してやらなきゃならないってのに。アレのせいで、何か最近“塔の魔女”も研究だか何だかに夢中らしい。全く、迷惑な話だよ」
「あの噂の魔女サマか。別に魔女サマが研究に夢中なんていつもの事だろ、何が問題なんだよ?」
「バカ、あいつの研究はクルーガーさんや俺達の開発に影響が出たり、迷惑掛かったりするものが大半なんだよ。それに、仮に開発用の希少素材が足りなくなったりした場合、あのチビはどう権力を使ってるのか知らないが優先的に素材が手に入るんだよ。分かるか?これがどういう事か」
「素材が足りずにバカを見るのは、クルーガーさんや俺達って事か。何やっても面倒にしかならねぇなぁ、あのチビは」
「全くだよ。グロングスも俺達と仲良くしたいなら、あのチビを何とかしてくれりゃあ良いのにな。あのクルーガーさんでさえ、話が通じない様なチビが折角懐いてるんだから上手い事躾てくれりゃあ良いのに」
「はは、ちげぇねぇな。つーとあの噂は本当なのか?ほら、グロングスに塔の魔女が懐いてるせいで、魔女もグロングスの言う事だけは聞くって噂。それで現にあの魔女を説得したり、除雪の時には俺達に噛み付かない様に言い聞かせたりしたんだろ?」
「あぁ、本当らしい。カラスの縁があるからか別の理由があるからかは知らないが、あのチビはグロングスの言う事だけは聞くんだとさ。本当、一体どうやったのかね。あのクルーガーさんでさえ上手く行かない事が殆どだってのに」
「じゃああの噂も本当なのか?ほら、グロングスを上手く使えば塔の魔女をコントロール出来るんじゃないか、って噂だよ」
「あーーー、あの噂か。グロングスを手懐ければあのチビも手懐けられる、って話」
「そうそう。俺達以外に味方が居ないからかは知らないが、あのグロングスは技術開発班の連中には好意的なんだろ?折角なら、利用してみたら案外便利かも知れないじゃねぇかよ。そもそもグロングスはあのカワセミにさえ、話が通せるらしいしな」
「仮に、お前の言う通りだとしよう。現にあのグロングスは、色んな面倒な連中に何故か顔が広いみたいだしな。協力させて靴でも磨かせたら、さぞ便利だろうよ。それこそ、団の中で名が通るぐらいにはな。だがよ」
「お前、そもそもあのグロングスに頼み事出来んのか?俺ならそんな不吉過ぎる真似は、それこそ死んでも御免だがね」




