257
「結局、ゴーレムバンカーはどうなったんですか?」
「どうなった、とは?」
「去年、ワーディーボンディッツ地区で自律駆動兵相手にあのグロングスが使って以来、ゴーレムバンカーの実戦報告は無いでしょう?改良案について聞きましたが、本当にあのグロングスの意見だけで改良案を通したんですか?」
「その様に言うものではありませんよ。彼は実際にあの自律駆動兵、それも実戦で猛威を振るう“グレゴリー”と“アナベル”に対して、理想的な程に命中させたのですから。彼以上に信頼出来る意見は今の所ありません」
「まぁ、そりゃ唯一の意見ですからそうでしょうけども。しかし、こう、戦闘の現場について知らない自分が言うのも何ですが、良く当てられましたね。相手は鋼鉄と合金で出来た荒れ狂う暴れ鹿みたいなもんでしょう?少し間違えれば、上下に真っ二つにされてもおかしくない相手だってのに」
「流石はミスターブロウズ、と言った所でしょうね。勿論、私も皆が皆、彼と同じ事が出来るとは思っていません。だからこそ、“これ”を開発したのです」
「“スプーキーケトル”、ですか。作動させた瞬間、薬剤が混ざりあって泡となって吹き出し、その粘性のある泡も大気中の成分と化合して即座に硬質化する………」
「正確には大気中の水蒸気、ですかね。微々たる量でしょうが化合するには充分です。まだ実験段階ですが、これが命中し自律駆動兵に纏わり付いた状態で硬質化すれば」
「自律駆動兵の動きを阻害、動きを止める事が出来る、って訳ですね。そして動けなくなった所にゴーレムバンカーを打ち込む………か。疑ってる訳じゃありませんが、そう上手く行きますかね?」
「万事が上手く行く事などありませんよ。今だって、クラウドラインの事故は根絶されていませんし羽根ペンで指を刺してしまった人の指には、インクの刺青が残っています。これで自律駆動兵は敵ではない、なんて口が裂けても言えません」
「………………まぁ、そうですね。レイヴン達には、頑張ってもらうしかありません」
「そんな顔をしないでください、彼等は私達が思うより強い人々ですから。さぁ、私達も頑張りましょう。実践テストを始めますよ」
「あぁ、気を付けてください。それ、作動する安全装置がまだ一種類しか取り付けられてないんですから。実質、ピン抜いたら起爆すると思ってください」
「分かっていますよ。ですがあまり安全装置を増やすと咄嗟に使えないでしょう?」
「それにしたって、ポケットの中で作動でもしたら大事ですよ。何にせよ、絶対に安全装置は増やすべきです」
「まぁ確かに安全策については考慮しておきましょう。では、行きますよ。作動ーーーー!!!!」
「うわちょっとちょっと!!!クルーガーさんもっと遠くにーーーーー」




