241
「あの子よ。ほら、あの眼帯してる子」
「あぁ、例の子って、あの子だったのねぇ。折角良い子だったのに、あの様子じゃもうダメね。相手は分かってるの?」
「兵士らしいわよ、あの子1人に数人がかりだったって。あの辺りはギャングも居ないし、治安も良い筈なんだけどね」
「呑んだくれた連中にやられたんだろうけど、よっぽど運が悪かったんでしょうね。あの子もあの子よ、あんな雨の日に買い出しに行くなんて」
「その買い物も、自分から言い出したらしいわよ。皆が雨の日に買い出しなんて行きたくないだろうから、って」
「まぁ、幾ら取り繕った所であの子も結局はニンバラー地区出身なんだし、案外珍しい事でも無いんじゃないの?他のまともな地区出身ならまだしも」
「それがあの子、噂じゃ娼婦やギャングしか無いニンバラーが嫌でこの地区に来たんですって。結局、どこまで行っても娼婦の子は娼婦の子ね」
「あらそうなの?孤児院から来たって聞いたけど、娼婦の子だったの?」
「考えてもみなさいよ、ニンバラー地区なんて治安は最悪でまともな暮らしが出来てるのはギャングか娼婦か、その取り巻きよ。ギャングの子供なら、親が居なくても孤児院に捨てられたりしないわ。もしくは何らかの措置が絶対にあるでしょ」
「………あぁ、成る程。つまり、あの子は……」
「行き場が無くなった娼婦が物心付かない子供を、捨てたのよ。そうに決まってるわ、そうでないにしろ娼婦の子と大差ない境遇だった筈よ」
「まぁ良いわ、結局あの子も血筋に逆らえなかったとして、あの子どうなるのよ?」
「まぁ、まず間違いなく落伍棟行きでしょうね。聞いた話によると恩寵者様、特にあのゼナイド様が随分とご立腹だったそうだから」
「あの子に恩寵者の道を進めたのは、ゼナイド様だったものね。後一週間もすれば、あの子も修道院の地下でいよいよ恩寵者になるべく修練が始まってた筈なのに」
「何でもゼナイド様曰く、“聖女様に尽くす筈のその身を穢すとは無礼極まりない、神の道においては懲罰に値する”との事よ」
「妥当な結論ね。それで?」
「それでも何もそこまでよ、あの子は恩寵者どころか謹慎、正式な処罰まで待機。今までは囃し立ててた周りの子も、もう誰もあの子に見向きもしない。ちゃんと言わないと魚どころかパンさえ配られないんだから」
「そもそもあの子ちゃんと食べてるの?凄く窶れてるけど」
「話に聞くと時々もどしてたらしいし、食べるだけ無駄なんじゃない?」
「じゃあもう、どのみち修道女なんて無理じゃないの。元が元だし、最初から向いてなかったんじゃないの?」
「全く、折角あんなに美人なんだから、大人しくニンバラー地区で娼婦にでもなっておけば良かったのよ。あの見た目なら、それこそグース・ガーデンで稼げたでしょうに」
「身の程を弁えないからあんな目に合うのよ」




