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「本気かい?」
「えぇ。頼める?」
「そりゃあんたの頼みなら断らないけどね、本当にこの店に呼び出すのかい?」
「別に暴れたりしないわよ。向こうが暴れるなら話は別だけど」
「ラシェル、分かってるのかい?あいつは」
「心配しなくて良いわ。あんなんでもあいつ、此方の言う事は聞くもの」
「………ラシェルがそこまで言うなら、もう言う事は無いけどさ。酒は?言っておくけど、流石にあんたでもタダ酒とは行かないよ」
「別に飲んだくれる訳じゃないわよ、幾らか話をするだけ。金なら払うから」
「こんな事言いたくないけど、マリーは?この事は知ってるのかい?」
「言ってないわ。今夜は人喰いカラスのグロングスと一杯やってくるわ、なんて言える訳無いもの。あの子、何だかんだ心配性だから」
「モメ事にならないだろうね、あたしはあんたとマリーを仲裁するつもりは無いよ」
「大丈夫よ。何度も言うけどあいつ、其処らの呑んだくれた連中と違って暴れないもの」
「………あんたには今更な話かも知れないけどね、用心するんだよ。相手はあのグロングスなんだろ?いきなり羽と嘴が生えて其処らの客を、頭から丸齧りにする可能性だってゼロじゃないんだから」
「大丈夫よ。言ったでしょ、話をするだけよ。グロングスがバケモノなのは事実だけど、周りの連中が噂してる様な奴じゃないわ。万が一暴れたら外でケリ付けるわよ、店も荒らさないから」
「…………ラシェル、あんたには返しきれない借りがあるし、あんたがそこまで言うのなら私には断る理由なんてこれっぽっちも無い。だけど……」
「リージャ、そんな顔しないでよ。大丈夫だから。私を信じて、ね」
「あんなのと話してバケモノが伝染して、あんたもバケモノになっちまったらと思うとどうしても心配なんだよ」
「大丈夫よ、リージャ。大丈夫。心配しないで」
「だってあいつ、カラスを呼び出しては修道院を襲わせて、修道女の首を持ってきて平然としてる様な奴なんだろ?安心出来る訳ないじゃないのさ」
「少なくとも其処らの犬やクズどもよりは言う事は聞くから大丈夫。信じないだろうけど信用は出来るのよ、あいつ」
「……………分かった、あんたには敵わないよ。こんだけ忠告したんだ、あのメネルフル修道院の修道女みたいに、生首の塩漬けにされても私はもう知ったこっちゃ無いからね」
「恩に着るわ。また今度、マリーと飲みに行くからよろしくね」
「ほんとに全く、今からもう気が気じゃないよ」
「それとリージャ、知らないみたいだから一応言っておくけど」
「その修道女の首を、塩漬けにしたのは私よ」




