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トルセドール側に付いた事は俺の今までの判断の中でも、一番の正解だったらしい。
聖レンゼル修道会、ひいてはメネルフル修道院が力を失ってからというものの、ラクサギア地区は今までに無い程に爽やか日々を送っていた。
踊る事も酒を飲む事も集会を開く事出来ずに日陰で感謝し続ける生活なんぞ、クソ食らえだ。自分の小便でも飲んでやがれ。
最初はそんな思いでトルセドール、ストリートギャング側に付いたが俺はどうやら“勝者の側”に付けたらしい。
一時期こそトルセドール側が追いやられ、修道院側が優勢になっていた時期もあった。
修道院側に付いた、毎日毎日雨にも汗にも感謝してる連中が勝ち誇っていく光景も、よく覚えている。
自分はお世辞にも立派な人間で無い事は自覚していたが、それでも自分なりの矜持として一度付いた側には最後まで付くと決めていたし、それで滅ぶなら最後まで罵倒を吐いて倒れる程度の意地はあった。
それがよりにもよって、功を奏したらしい。
結論から言えば、トルセドールは修道院の衰退に食い付く形で勢力を盛り返し、ここ最近は素人目にも“ここを越えられたらもう逆転は難しいだろう”と分かる領域を、遂に越えた。
レガリスの中央新聞様曰く、ラクサギア地区の治安は“帝国軍と修道院の力が及ばないから”という理由で過去最悪になっているらしい。
だが、ストリートギャングことトルセドールが街や路地を代表する様になってから、明らかに治安は良くなっている。
自分がその恩恵を受ける側だから、という意見もあるかも知れないが率直に言って、今“恩恵を受け取れない側”に居る様な奴は日陰に追いやられて破滅したとしても、文句は言えないだろう。
ラクサギア地区を救ってくれるのは、神でも派遣されてきた帝国軍の連中でもない。
自分達やトルセドールの様にこの街に住み続け、この街と地区を愛している者達だ。
自分の様な名もなき市民の為に、トルセドールやそれらを率いるロドリグ・ユングランは、この街を兵士さながらに巡回してくれる。
資源や配給を、帝国軍や修道院のクソどもではなく人々へと配布してくれる。
現に、ディロジウム燃料庫が爆破されたせいで燃料が高騰し、帝国軍の連中がバカみたいな値段でディロジウム燃料を売り付けてこようとした時も、トルセドールは割安の値段でディロジウム燃料を街の人々に売ってくれた。
帝国軍はそれが随分気に入らないらしく、トルセドールの売るディロジウム燃料は高額かつ低品質だ、なんて広めようとしているが実際の人々は鼻で笑っているのが現実だ。
確かにトルセドールはストリートギャングだ。それも、血塗れの抗争を日夜繰り返していた様なギャングであり、鉄パイプを振り回して喧嘩上等を気取っている不良とは訳が違う。
血腥い事も随分やったろうし、色んな法を破ってきただろう。
だが現にトルセドールは今人々を支え、助け、街に光をもたらしている。
ギャングが街の主導者になる事を危惧していた者も居たが、現にトルセドールの指導者ロドリグ・ユングランは街の人々の為に金を使っている。それも、決して安くない金額を。
ディロジウム燃料の件にしても、どうやっても採算は取れないしもっと値を上げる事も出来た筈だ。
それをやらず、返ってこない事を分かっていてロドリグは、このラクサギア地区の為に身銭を切っているのだ。
薄汚れた金かもしれない、いや間違いなく薄汚れた金だろうが、それでもこの街がトルセドールによって救われているのは間違いない。
トルセドールこそ、この街を代表するに相応しい人々だ。




