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1839年
レガリス中央新聞
夜霜の月17日
“ラクサギア地区にレイヴン襲撃、鮮血に染まった修道院”
有数の宗教地区と謳われるラクサギア地区、その地区内のメネルフル修道院において惨劇とも言える大量殺人が生起した。
当初、帝国本部はラクサギア地区に住み着いては度々聖レンゼル修道会と武力抗争を引き起こしているストリートギャング、“トルセドール”の構成員による犯行と思われていたが、数々の証言と状況調査により近年レガリスを脅かしている黒羽の団の工作員、レイヴンによる犯行だという事が明らかに。
レイヴンは、メネルフル修道院及び帝国の管轄にあったディロジウム燃料保管庫を爆破し、メネルフル修道院に所属する修道女や帝国兵、及び敬虔なテネジア教徒を引き付けている内に狡猾にも修道院内へ侵入し、犯行に及んだ模様。
因みにその犯行により、ディロジウム燃料の価格が一時的に高騰し、その高騰に乗じてギャングが低純度の濁ったディロジウム燃料を街中で売っていた事から、帝国本部は“トルセドール”と黒羽の団には市民から搾取する為の両立関係があるのでは、と一部からは意見が上がっている。
修道院内部は具体数こそ伏せられたものの相当数の死傷者が発生しており、一部の施設を除いて一時的に封鎖される事となった。
メネルフル修道院の副修道院長ポリー・ファーノンは、封鎖解除の具体的な日時については言及を控えている。
レイヴンが修道院を襲撃した理由について帝国本部は、“邪神崇拝による異教への狂暴性の発露、または攻撃性を認知させたいメッセージの可能性が高い”との見解を示した。
劣等種故の正当人種への怨恨が今回の件の発端では無いか、との意見もあったが修道院を狙う時点で亜人の宗教的なものが関与しているのは間違いないとして、怨恨の設は有力ではないとされている。
近年、ラクサギア地区の聖レンゼル修道会と、恥ずべき堕落者達ことストリートギャング“トルセドール”の抗争が激化している事を報じられていたが、今回の件において一時的にではあるが聖レンゼル修道会より、ストリートギャングこと“トルセドール”が些か優勢となっている、と言う根も葉もない風評が流れ始めている事が判明した。
敬虔な信徒及び、レガリスの正当な市民達には悪意ある風説の流布に過ぎないが、帝国及び各修道会によると元から信心が脆弱な者、亜人や奴隷等の劣等種に感化された者、邪教を崇拝する者の間ではその魂と信仰を腐らせるには、その風説であっても十分な効果があるとの事。
帝国本部は亜人や奴隷に加え、一部の不敬な連中にもその兆候が無いか、目を光らせる様に市民へと呼び掛けている。
予定されていたメネルフル修道院の修道院長の表彰及び、聖レンゼル修道会への支援額の増額についての続報は、未だ出ていない。
“貴方が剣を持たずとも、剣は貴方あってこそ”
本誌の崇高なる読者達の近くにも、最近礼拝に行かなくなった知り合いは居ないだろうか?
礼拝に来ていても、気が入らない顔をしている友人は?
知人の本棚の聖書が埃を被っていたり、奴隷と話し込んでいる者は居ないだろうか?
もしそんな者が居たら、是非にでも帝国へと届け出て欲しい。
例えその手に銀の剣が握られていなくとも聖母テネジアへの信仰さえあれば、貴方にも悪や邪な者を討つ事は出来る。
貴方は無辜であれど、決して無力ではない。
貴方が剣を持たずとも、貴方の信仰と声には剣が集う。
敬虔な信徒の呼び掛けには、必ずや眩い銀の剣が従うだろう。
貴方の一声が、レガリスを守る。
有力情報に心当たりがある方は、今すぐ帝国に連絡を。




