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仲が良いと思った事は無い。
だがそれにしたって、ここまで睨まれるとも思わなかった。
幹部達が集まった会議室において、空気は鉛が滞留しているかの様に重苦しい。相変わらずと言えば、それまでだが。
「今回の作戦区域はラクサギア地区。加えて言うならラクサギア地区に存在する修道院、メネルフル修道院内部の目標を暗殺する事が任務となる」
目の前を横切る形で歩きつつ淡々と説明するアキムの言葉を聞きながら、手元の資料にもう一度目を走らせる。
ラクサギア地区、か。
テネジア教徒やテネジア教徒を志した事がある者なら、いやレガリス市民なら一度は聞いた事がある、有数の宗教地区の一つだ。
「今回、君達に言い渡す任務は2つある。1つは修道院内に居る目標、ユーフェミア・シャーウッド及びオフィリア・ホーンズビーの殺害だ」
ヴィタリーもクロヴィスも資料片手に空気同様、重苦しい表情をしている。
いや。
僅かではあるが、ヴィタリーには楽しんでいる様な空気が感じられなくもなかった。
胸中で顔をしかめる。理由は、明白。
今も平然と隣で話を聞いている、ラシェル・フロランス・スペルヴィエル。
こいつが此処に居る事。そして、時折こいつが何故か俺に睨み付ける様な視線を向けてきている事が、この空気の重さに一役買っている事は間違いなかった。
「もう1つはメネルフル修道院が極秘文書として隠し持っている、顧客名簿だ」
「顧客名簿?修道院にか?」
アキムの言葉に思わず声が出るも、クロヴィスが直ぐ様「顧客名簿、と言っても半分は比喩だがね」と訂正を入れる。
そのままクロヴィスが机に広げていた資料を一つ引き寄せ、指した。
クロヴィスが指した資料を覗き込み、目を細める。
資料には、メネルフル修道院が扱っている非合法の奴隷売買、また奴隷の“出荷”について事細かに記されていた。
奴隷売買?出荷?
最初、書いてある意味が分からず幾らか理解が遅れてしまった。
少し身を乗り出す形で、資料に目を走らせる。
レガリス内でも有数の宗教地区たる、ラクサギア地区。
そんな地区内において、要塞の如くそびえるメネルフル修道院。
厳格な信仰故の、兵士に負けぬ程に鍛え込まれた修道女達。
帝国軍よりも修道会が実権を握る、特異な治安体制。
俺も元は帝国軍だ、話のついでに聞いた事こそはあったが………こうして、正式な資料として目を通すと何とも珍しい物を見た様な気分にさせられるものだ。
だが勿論、資料において聞いた事があったのは地区の説明だけ。
資料を読み進めるにつれて、自分でも分かる程に表情が曇っていった。
日常的に繰り返される、修道会に“相応しくない”市民への弾圧。
自由を求め、武器を手に立ち上がるギャング達。
激化する抗争。
もし、と言うよりほぼ確実にそうなのだろうが、この資料に書いてある事が本当なのだとしたらレガリス有数の宗教地区と言いつつも、この地区だけ未だに小規模な戦争が続いている様な有り様だ。
そして、何より“落伍修女”。
メネルフル修道院、いや聖レンゼル修道会内にて、聖職者でありながら罪人として扱われる人々。
拳を握り締める。
資料にはメネルフル修道院の落伍修女が、贖罪の為“派出”と称されて比較的軽犯罪の監獄や要望のあった労働施設、または他のテネジア教が軽んじられている地区に派遣され、テネジア教徒の修道女として活動するそうだ。
派出された後は制限も多くあるものの、派出される前に比べれば、一人前の修道女として扱ってもらえるそうだ。
しかし派出された落伍修女は今後、永遠にメネルフル修道院に戻る事は無い。
それもまた、償いという事になっていた。
だが、あくまでそれは表向きの話だ。
派出について、疑いもなく表向きの話のを信じている修道女が大半らしいが、実態は“派出”などではない。
派出の実態は認可無し、査定無しで非合法のキセリア人奴隷として本人合意無しに取引される事であった。
只でさえキセリア人奴隷は奴隷認可が難しく希少価値が高い事から、ラグラス人の奴隷と比べ非常に高額で取引される。
俺は専門家では無いが、奴隷認可が難しく希少価値が高いキセリア人奴隷を、認可無しで本人の同意も無く連行し、非合法に売り払えばどれだけの利益が出るかは想像に難くない。
本人に一切合意の無いまま新しい聖職者の道として連れて来られたかと思えば、聖なる修道女だった身分を抹消された上に勝手に値段を付けられ、顔も知らない奴等が儲ける為に人生を含めた全てを売り飛ばされるなど、許される訳が無かった。
「資料には載せてあるが顧客名簿とは別に、取引先が“非合法と分かっていて取引している”という証書、もしくはそれに準ずる物がある筈だ。そちらも手に入れてくれ」
アキムの言葉に、思考を巡らせる。
合法だと証明するのではなく、非合法だと証明する証書?
「………非合法だと証明する証書を、わざわざ修道院が所持しているのか?俺達には好都合な証書だが、何故そんな物を破棄せずに持ってるんだ?」
そんな俺の言葉に、クロヴィスが何故か自慢げに鼻を鳴らした。
クロヴィスの試す様な視線と仕草に、少し考え込む。
そんな物を持っていては自身が不利になる事は勿論、取引相手にも不都合だろう。そんな物を保持し続ければ、今回の様に俺達の標的になる事だって考えられた筈だ。
何故お互いに非合法取引の妨げになる様なものを、考えた辺りで不意に合点が行った。
成る程。
“お互いに不都合だから”か。
「………その証書があれば取引先は、メネルフル修道院を切り捨てられない。甘い汁だけ吸って修道院を通報する事が出来なくなる。向こうが修道院を裏切れば、修道院が取引先を道連れに破滅させるかも知れない。お互いの為の、防護策か」
俺の言葉に頷きつつ小さく笑ったクロヴィスがヴィタリーに視線を投げたが、ヴィタリーは鼻を鳴らしただけだった。
正解には正解らしいが、気に入るかどうかは別の話らしい。
「もうじき、奴隷認可に関する規制緩和が通ったらキセリア人奴隷の価値が幾らか下がる。多少ではあるが、非合法で奴隷を売り捌いている奴等からすれば、無視できる額じゃない」
脱線しかけた話を本筋に戻そうとしているのだろう、静かだが通る声でアキムが呟く。
規制緩和、と言われて思い当たる節はあった。
以前自分がラシェルと共に、直々に飛行船に乗り込んでまで殺害したラグラス人、ダニール・ヤンコフスキー。
その主たるアーウィン・フィッツクラレンスが提案した、キセリア人奴隷認可に関する規制緩和の事だろう。
ラグラス人奴隷に関する、焼き印を義務化する法案が見送りになった後も奴隷貿易について随分と御執心だったらしい。
その結果、不景気となっている奴隷貿易を活性化しようとキセリア人奴隷の、認可に関する規制緩和を提案したのだ。
「今回の規制緩和が可決されて旨味が減る前に、売れるだけ売ろうって腹だろうな」
ヴィタリーが世間話でもしている様な語気で、淡々と述べる。
成る程。ある程度の話、道筋は見えてきた。
何故レイヴンがこのラクサギア地区及びメネルフル修道院に差し向けられるのか、そしてレイヴンがその“顧客名簿”とやらを入手出来ればどれだけの事が出来るのかを。
少なくとも自分が考えつくだけでも幾つもの事が出来るのだから、“扱う奴が扱えば”相当な事が出来るのは間違いない。
しかし、何故に今になって。
そんな思いと共に机から顔を上げると、そんな俺の思いを見透かした様にクロヴィスが手で俺の発言を制する。
「前回のウィンウッドの件で、帝国の奴隷貿易が揺れている。それも、正式な奴隷貿易がな。統率を失った奴隷商達やそれに伴う奴隷商社が、後先考えずに目先の利益を求め、奴隷貿易全体を食い荒らしているんだ」
去年、俺がウィンウッドを暗殺し奴隷商達の統率を失わせた件は、思った以上に深い傷を残していたらしい。
共食いの様に自滅していくだけでなく、まさか奴隷貿易全体を本格的に食い荒らすまでになるとは。
「奴隷貿易の件で規制緩和、及びそれに伴うキセリア人奴隷の非合法売買が活性化しなければ今回の件は炙り出せなかった。ウィンウッド………“毒虫の毒”が今更になって、一段と深く効いてきたのだろうな」
自分が考えていた通りに物事が上手く進んだ為か、少しばかり得意気にも見える顔でクロヴィスが説明を続ける。
そんなクロヴィスに少し嘆息したヴィタリーが、引き継ぐ様にも遮る様にも見える様子で口を開いた。
「そんな稼ぎ方をしていたら先が無い事は、まともな脳ミソを持ってりゃ分かっている筈だ。案外、奴等こそ奴隷貿易を身限ったのかもな」
ヴィタリーの言葉に賛同するのは不本意な所が無くも無いが、確かにそんな強引な稼ぎ方をしていては先が望めない事は間違いない。
「それか奴隷商の間では、認可無しにキセリア人を売り捌くのが今は一番稼げる、なんて言われてるのかもな」
ヴィタリーに笑い掛けるかの様に、クロヴィスがそんな言葉を掛ける。
視界の端で、ラシェルの眼が少しだけ冷たくなったのが見えた。
どうやらラシェルとしては、気に食わない言い方だったらしい。
そんな空気を少し諌める様にアキムが咳払いをして、場を引き締める。
「この好機を逃す道理は無い。そんな傾いた飛行船の様な奴隷貿易に、今回の件で根幹から大打撃を与える。それも、帝国が無視出来ない規模の打撃をな」
アキムの言葉に、幾らか顎を引いた。
奴隷貿易に大打撃を与える。それも帝国が無視出来ない規模の打撃を、か。
随分と大それた意見に聞こえるが、現に奴隷貿易全体へ商人と詐欺師がウジの様にかぶり付き全てが腐り始めている今、最大限に打撃を与えるなら今しか無い事は認めざるを得ない。
「“顧客名簿”を我々の諜報班及び、情報班が上手く扱えば奴隷商のみならず、非合法のキセリア人奴隷の所有者、キセリア人奴隷を“入荷”している奴隷商社。ひいてはラグラス人奴隷に関しても奴等に打撃を与えられるだろう」
最後に関しては、状況次第ではあるがな。
発言をそう締め括ったアキムに、胸中で幾らか頭を捻った。
非合法に入荷されているキセリア人奴隷の件については、奴隷貿易に打撃を与えると言うのも分かる。キセリア人を売り捌いている奴隷商についても、確かに打撃を与えられるだろう。
だが、今回の件でラグラス人の奴隷貿易にも打撃を与えるなんて、どういう事だろうか?
少しばかり思案を巡らせたが、直ぐに頭を切り替えた。
どのみち、自分が考える様な事でもない。
「そして今回の任務において“顧客名簿”を管理しているであろう、オフィリア・ホーンズビーについてだが………“恩寵者”との事だ。それも、メネルフル修道院においては殆ど頂点に位置する実力者だとか。これが、今回君達を抜擢した大きな理由の1つでもある」
恩寵者?
アキムの発言に怪訝な顔をしていると、アキムも此方がそういった反応をする事は予測していたらしく何かを言い掛けた後、不意にクロヴィスへ視線を投げた。
そうしてアキムから視線を投げられたクロヴィスが、何かを言おうとしてヴィタリーに視線を投げる。
当のヴィタリーが、手振りだけでクロヴィスから投げられた話題を断る様に払った。
散々に投げ渡され手で払われた視線が、隣のラシェルに行き着く。
隠そうともしない舌打ちの後に、ラシェルが露骨に不機嫌な顔を作りつつ、口を開いた。
「………恩寵者は、有数の宗教地区に住み着いてる、“聖書を読み過ぎた”化け物よ。メネルフル修道院なら、聖母の小便を飲み過ぎた修道女ね」
そんなラシェルの言葉にクロヴィスが眉を潜めたが、何一つ気にしていない様子のラシェルが続ける。
「ラクサギア地区の修道女は帝国軍の憲兵に並ぶと有名だけど、恩寵者はそんな修道女や憲兵なんて噛み砕いて吐き出す程の化け物よ」
憲兵を噛み砕いて吐き出す程の怪物、か。
それも、修道女の怪物と来た。
言うまでもなく信じがたい話だがラシェルがこの場で冗談を言う様な奴には、当然ながら思えない。
それに、こいつはこの気迫で冗談を言う奴じゃないだろう。
「一応聞くが、具体的には?」
そう聞くとまたも舌打ち。どうやら、理由は分からないが恩寵者の事を聞かれるのは、ラシェルとしては勘に障るらしい。
「………童話に出てくるクソみたいな悪魔が修道女の服を着て、聖書を読みながら大の男を引き千切っている様なもの、とでも言っておくわ。其処らの大柄なギャングの頭蓋骨を殴って砕く様な力に加えて、戦闘技術は上級衛兵と同じかそれ以上だと思った方が良いわね」
嫌々、と顔に書いてあるラシェルの説明を聞きながら少しだけ目を細める。
上級衛兵と同じ戦闘技術を持っている上に、骨を砕く怪力か。
確かに手こずりそうだな。上級衛兵と同程度の技術を持っているとなると、装甲兵の様な兵として捉えるべきだろうか。
と、そこまで考えた辺りで不意に顔を上げる。
アキムは先程、恩寵者の件に対して「君達を抜擢した大きな理由」と言った。
任務の難解さではなく、自律駆動兵の時の様に、その“恩寵者”とやらに対して俺達を抜擢したと言う事になる。
「気が付いた様だから、捕捉させてもらうが」
そんな言葉に目線を向けると、言葉に少し溜め息を混ぜ込んでヴィタリーが話し始めた。
「只の装甲兵程度なら、わざわざお前を呼びはしない。ラシェルもな。今回の暗殺目標の1人、オフィリア・ホーンズビーを含めた“恩寵者”とやらは、どうやら………超常的な力を持っているらしい。個人的には信じがたいがな」
「超常的な力?」
上級衛兵程の実力を持っている怪物が、よりにもよって超常的な力だと?
俺の言葉に、ヴィタリーが睨み返してくる。
睨まれるのにも随分と慣れたものだ。慣れるべきでは無いのだろうが。
「現にそいつから言われてるんだよ、恩寵者とやらに自分の縄張り………修道院の地下で戦わせたら、例えレイヴンでも相手にならないだろうってな」
レイヴンでも相手にならない?
言うまでもなく、レイヴンの戦闘力は非常に高い。
練度で言うなら上級衛兵を上回る事も多々あるだろう、現に聞いた話だけでもレイヴンは数多の装甲兵を真正面から殺害しているし、こうして団に来た今となってはレイヴンが装甲兵を殺しているのも頷ける話だ。
それが、相手にならないだと?レイヴンが?
「あくまでも奴等の縄張りである地下修道院での話、ではあるがね。修道院以外の一般的な外部なら、まだレイヴンに勝ち目はあるそうだ」
クロヴィスがそんな捕捉を入れるも、考えが纏まる訳でも無い。
そこまで言われて、漸くヴィタリーが言っていた“超常的な力”と言う言葉に焦点が向いた。
「………その、超常的な力とやらが関係しているのか?」
「言ったでしょ、“大の男を引き千切ってる”って。誤解してる様なら言ってあげるけど、比喩じゃないわよ。わざわざ怪物なんて言い方してるのも、大袈裟なつもりは無いわ」
不機嫌そうな顔を張り付けたまま、ラシェルがつまらなそうに説明した。
比喩じゃない、か。
ラシェルは随分と普通に言ってくるが、それだけの怪物染みた存在を比喩抜きに捉えた上で、敵になるどころかそれが暗殺対象だと言うのだから、随分と話が変わってくる。
現にそんな怪物染みた奴を相手に撃退や回避を目標とした戦闘、殺害では無く、明確に対象の“抹殺”を目標としている辺り、恐らく奴隷貿易への打撃とは別に、現政権及び帝国に対する民衆の決起を後押しする意図もあるのだろう。
「超常的な力なんて見慣れてるでしょ?“人喰いカラス”。それとも“グロングス”って呼んだ方が良いかしら?」
そんなラシェルの言葉に、視界の端で少しだけヴィタリーが口角を上げたのを見えた。
アキムが再び咳払いと共に場を諌め、此方に目線を向ける。
「今回の件は元々、彼女を含むレイヴン数人の作戦だったのだがミススペルヴィエルの強い要望により、君が“恩寵者”と対決するべく今回の任務に呼ばれる運びとなったのでな」
淡々と語るそんなアキムの発言に、思わずラシェルの方を見る。
元々、ラシェル達だけの予定だった作戦に、その恩寵者とやらを倒させる為に俺は呼び出されたと言うのか?
それもあのラシェルからの、強い要望によって。
俺が言いたい事を理解したのか、視界の端でクロヴィスが肩を竦める。
何度目か分からない舌打ちと共にラシェルが俺の方に顔を向け、殴りかからんばかりに睨み付けた。
「手が足りずにグロングスを呼びつけるなんて、私だって不本意よ。でも私は実質主義者でもあるの。汚い犬だろうとタンスの裏のエビだろうと、人喰いカラスだろうと任務で最良の結果を出せるなら、遠慮無く使わせてもらうわ」
………何と言うか、ここまで言い切られると最早感心してしまう。
遠慮なく使わせてもらう、か。随分な立場なのは分かっていたが、いやはや。
「そして、どれだけ不気味で気に入らないクソッタレの化け物だろうと、あんたは現に結果を出してる。グロングスの“超常的な力”とやらも使って、無理難題を抉じ開けて解決してきた。幸いな事に、あんたには団に協力する以外の選択肢も無い。なら使わない道理は無いわ」
ヴィタリーから、感心とも皮肉とも言えない嘆息が漏れる。
猟犬と猟用鳥は愛嬌ではなく成果が全て、か。
少しばかりの静寂の後、何とか空気を変えようとしたのだろうクロヴィスが、辛うじて発言しようとした所をヴィタリーが遮って口を開いた。
「そういう事だ。こいつの言い分は筋が通ってる、俺がお前を気に入らない事を抜きにしてもな」
何処か楽しんでいる様な空気を漂わせつつ、ヴィタリーが言葉を続ける。
「現に、お前は愛想と評判が最悪だが成果を出している。お前が気味悪いカラスの化け物なのを踏まえても、成し遂げた事実は無視出来るもんじゃねぇ。修道院の怪物とやらに大事なレイヴンじゃなく、此方で飼ってる怪物を差し向けるのは道理だしな」
意外そうな顔をしているアキムにヴィタリーが気付いているのかどうかは分からないが、それでも言葉は僅かに演説の色を含みつつ流暢に続いた。
「鹿車を犬に引かせても仕方ない、共食いだろうと何だろうと化け物が化け物を倒してくれるなら、それに越した事は無い。最悪、処分の手間も省けるしな」
そう言い切るヴィタリーに、少しの間を置いてクロヴィスが下手な愛想笑いを溢す。
俺が散々に言われてる空気を変えようとしたのだろうが、残念ながら余り上手とは言えなかった。
「こう言うとお前を歓迎してるみたいだから、誤解されない様に言っておくぞ」
変わらず続けるヴィタリーに、クロヴィスがアキムに仲介を求める様な視線を向けるが、アキムが表情だけで提案を却下する。
見慣れた風景と言えば、それまでだった。
「使えない猟犬は、締め殺して毛皮にするのが世の常だ」
「使えない怪物を飼いたい物好きは此処には居ない。それだけは、忘れるなよ」




