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「ギャング達の様子はどうだ?」
「問題ない。奴等、相変わらず俺達をブラックマーケットの業者だと思ってる」
「随分とギャング達が黒羽の団に好意的だからな、まさかと思ったが露見していないなら別に良いか」
「全くだ、俺も最初は正体が割れてるのかと思ったよ。カラスのシンボルマークだの、カラスの落書きだの、随分な歓迎ぶりだからな。生憎、俺達は他人のフリをするしかないが」
「あぁ、革命の象徴なんだとよ。浄化戦争以来、ここまで俺達が応援されてるのは何時ぶりだろうな。それも、キセリア人にだぞ?もう10年は前の様な気がするよ」
「……やはり、ラクサギア地区にラグラス人の居場所は無いんだな」
「ラグラス人への差別なんて見慣れたつもりで居たが、ここは特に酷いな。街じゃまるっきり、1人もラグラス人を見掛けねぇ。どこもかしこも、白い顔ばかりだ」
「トルセドールのメンバーにも聞いたが、この地区じゃラグラス人ってだけで殺されかねないそうだ。外で大っぴらに奴隷を使う事自体が“卑しい”んだと」
「成る程な。それで、外では何一つラグラス人を見掛けない訳だ」
「外を堂々と歩けるラグラス人は、この街じゃトルセドールのメンバーだけだ。修道院の連中や修道院に従ってる連中が、わざわざラグラス人を外に出歩かせる訳が無いからな」
「この街に来た当初、トルセドールの小僧にすぐ“業者”だと露見した意味が分かったよ」
「あぁ、成る程。お前みたいなラグラス人が、何気ない顔で出てくるなんてラクサギア地区じゃほぼ有り得ない事だからな」
「“見掛けない顔だな、新入りか?”だと。思わず笑っちまったよ」
「そう言うなよ、向こうに悪気は無いんだ」
「分かってるよ。それより………戦況は?先日も抗争があったんだろ?」
「あぁ………言いたくないが、芳しくないな。先日の抗争で、東の通りの辺りの縄張りを大きく失った。かなりの痛手だ」
「東の通りを失ったのは痛いな、あの通りには良い卸売の業者が居たんだが。クソッタレめ」
「東の通りは、此方の優勢だったんだが………ほら、出たのさ。例のアレが」
「例の……あぁ、何だっけ、僥倖者?」
「恩寵者だよ」
「あぁそうだ恩寵者、恩寵者。その、何だ。そんなにその恩寵者ってのは強いのか?バカみたいに強いって話だけは聞いてるが」
「あぁ、俺も直接見た訳じゃないが其処らのギャングを束ねて千切るぐらい強いんだと。何でも修行だの祈りだの、鍛練だのを寝ても覚めても続けた結果、神様に近付いた連中らしい」
「神様に“近付いた”?」
「トルセドール達は“聖母の小便を飲み過ぎた奴等”って言ってたけどな。まぁ何にせよ、壁の向こうの連中を把握して槍で突いてきたり、真後ろからの攻撃を振り向かないまま真正面みたいに払ったり、修道女が大の男を掴んで投げたりと、とんでもない事ばかりしているらしい」
「デマじゃ、無いんだろうな。現に人が死んでる」
「あぁ。どんだけ祈った結果なのかは知らないが、聖なる力が備わってるんだと。あくまであいつらの言い分だけどな」
「クソッタレめ。何が聖母だ、俺達を踏みにじっておいて、踏みにじってる連中に聖なる力だと?ふざけんじゃねぇ」
「トルセドール達もそう言ってたよ。本当にそうなら、奴等の宗教こそ邪教だとか何とか。聖なる怪物とか祝福された化け物なんて呼び名もあるぜ」
「同感だな、奴等こそ正しく邪教………あぁ、成る程」
「そうさ、裏の裏は表だ。奴等がグロングスをあんなに応援してるのは、そういう理由もあるんだよ」
「聖書生まれの、祝福された聖なる怪物を倒すには………」
「あぁ」
「血溜まり生まれの、呪われた不気味な怪物が喰い殺すしかねぇ」




