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「どうだった?“塔の魔女”サマの容態は」
「どうもこうもねぇよ、あのクソガキお高くとまりやがって。毎朝、顔に石膏塗ってんのかと思うぐらい無愛想だしよ」
「ははは、だから言ったろ。アレの相手は疲れるぞって」
「それにしたって限度ってもんがあるだろ。あんまりにも上から口利くもんだから、教授やってた婆ちゃんに叱られた時を思い出しちまった」
「んで、容態はどうなんだよ?痰吐いて死にかけてたか?」
「それならまだやる気も出るんだがな。低体温症って言っても、初期症状の時に上手く対処してたし………凍り漬けになったせいで礼が言えないとか、あの無愛想な顔から戻らなくなったとかじゃないなら、暖かくして食って寝てろ、としか言う事ねぇな」
「じゃあ特に言う事はねぇ訳だ。良かったな」
「良かねぇよ!!元々あのクソガキ細すぎんだよ、枝になりてぇのか串になりてぇのか知らねぇが、野菜の缶詰と瓶詰めの蒸留水だけの不健康な生活しかしてねぇからバカみたいに細いんだよ。あれで倒れて、医者のせいにされたら良い迷惑だ」
「缶詰と蒸留水だけだからバカみたいに細い、ねぇ。ウチの妹にも缶詰食わしてみるかな、肥えすぎてガチョウより先にローストされかねん有り様だし」
「やめとけやめとけ、病気を疑われるのがオチだ。それより除雪はどうなってんだ?」
「あぁ、何とかなってるよ。見た感じ、1人で出来る最低限の部分を除雪していたんだろうな。確かに素人とは思えないぐらい効率が良い、必要な部分と不必要な部分を弁えてやってる辺り、賢いのは本当なんだろう」
「そうなのか?」
「これで、もう少し天候が落ち着いてれば何とかなったんだろうが………まぁ、運が悪かったって訳だ。単純に、ここまで冷え込む事は想定外だったんだろう。皆苦労する程の冬だしな。元々が自分を酷使する計画だった上に、気温が低体温症に罹る程冷え込むとは思わなかったんだな。計画外のトラブル、って奴だ」
「魔女サマも厳冬と豪雪には敵わなかった、って訳だ。不気味なぐらい賢くても、無理な物は無理ってな。そりゃあそうだよな」
「まぁ、何とかなるさ。人数は一応足りてるし、除雪剤も充分にある。下手に使うとレールや器材が痛むとか何とかうるさいから、普段は使えないんだが何とか話が付いてるらしく、今回は使って良いんだと。今回ばっかりは、あの偏屈な魔女サマも折れたらしい」
「元々、あんなガキがクルーガーさんに言い返してる時点でおかしいんだよ。何であんなのに、“許可を取る”なんてスカした真似しなきゃならないんだ?偉いからって偉そうにして良い理由にはならんだろ」
「しょうがないだろ。現にクルーガーさんが言い返せねぇんだ、あの人で無理なら俺達でも無理さ」
「…………クルーガーさんでも無理なのにあのガキ、何でブロウズの言う事は聞くんだよ?何か弱味でも握ってんのか?」
「知るかよ。何にせよ、塔の魔女が言う事聞くならブロウズを上手く利用するに越した事無いだろ。化け物同士、仲良くやってもらえば良いさ」
「そう言えば、そのブロウズは今日何やってんだ?魔女に言う事聞かせられるなら、今後も首根っこ抑えててくれりゃあ良いのに」
「ブロウズは、今日は今日で“カワセミ”に呼び出されてるんだと。とんでもねぇ話だよな」
「………“塔の魔女”を説得した次の日に、今度は“血塗れのカワセミ”と仲良くやってんのか?あいつ、よく八つ裂きにされねぇな。俺なら、命が幾つあっても足りねぇよ。流石は、“人喰いカラス”だ」
「“人喰いカラス”?何だよブロウズの奴、グロングスだの化け物だのに加えて、また気色悪い名前が増えたのか?全く、悪い呼び名には事欠かねぇな」
「最近付けられた名前だよ。“グロングス”や“カラスの怪物”なんて呼び名は幾ら何でも不吉過ぎる、と抜かす奴等が居るそうだ。下らねぇよな」




